まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

利用者さんに本を破かれてしまいました。

ボランティア活動の傾聴の時間に、
利用者さんに歌の本をビリビリに破かれてしまいました。
 
わたしは話題が乏しいので、
いつも話のネタにするために歌の本を持ち歩いています。
その本をちょっと重い認知症のMさんが手に取りました。
最初はニコニコしていたMさんでしたが、
ページをめくるうち、みるみるうちに目が吊り上がり形相が変わっていきました。
ぎこちない手つきで憑かれたようにページを一枚一枚必死でめくろうとしながら、
「見た、見た、見た、見た・・・」とものすごい早口で繰り返しています。
「しまった、Mさんには本を見せてはいけなかったのだ」
そう思って「Mさんにもう全部見てもらったから安心。大丈夫ですよ」と
肩に触れながら笑顔で声を掛けてみました。
すると、Mさんは一時的に本をめくるのを止め、別人のような笑顔になりながら
「そうかあ、そうかあ」とわたしの頭やほおを撫でてくれましたが、
またすぐ本をめくる動作に戻ってしまいました。
鬼気迫る形相で指を舐め舐めページをめくるMさん。
「これで全部見ましたよ、もう大丈夫ですよ」
そう声を掛けてみても、一時的に笑顔になってわたしの頭を撫でるだけで、
またすぐ本をめくる動作に戻ってしまうのでした。
そして、本に付いているツルツルした厚紙の表紙をビリビリと破り始めたのです。
「・・・それ、嫌なの?」そう声をかけると、
「そうだ、これは要らないんだ」
もうどうしようもないので、Mさんの気が済むように破いてもらい、
「これでいいですね。全部見たし本はこれでおしまいにしましょうか」
と言うと、ようやく「分かった」と穏やかな顔のMさんに戻りました。
 
それにしても、Mさんの鬼気迫る形相と「見た、見た、見た・・・」という言葉。
多分、Mさんは認知症が進んで行く過程で徐々に本の内容が理解出来なくなり、
文字が読めなくなっていくことにものすごいショックと不安感を抱いていたのだと思います。
「これから自分はどうなって行くのか?」「頭がおかしくなってしまったのか?」というような。
(これは、義父に現在進行形で起こっていることです。
だから入院前の義父は「俺はもうおかしくなってしまった。
もう死んだ方がいいんだ」と言いながら連日包丁を持ち出していたのです
入院後も「俺の頭は壊れてしまったんだ、もうおしまいだ」と何度か言っていました)
本をめくっているうちに、そういう気持ちが蘇って来て、
Mさんはきっとたまらなく不安で恐ろしい気持ちになってしまったのでしょう。
それが予見出来なかったのは、わたしの経験不足でした。
 
老人ホームでのボランティア活動を始めて3年ちょっと。
毎回勉強です。