まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

夫の「あれか、これか」。

先達の言葉は実に奥が深い。
 
哲学者はこう言ったそうだ。
「あれか、これか」。
 
そう、あれも、これもは、出来ないのである。
 
夫と暮らすようになって悲しかったことは、
夫が猛烈な仕事人間だったことだった。
子供が生まれるまで、わたしは社宅で一人ぼっちだった。
夫は土日も仕事、そして長期休暇は休んでいる人の穴埋めを買って出て、
自分は休みを取らずに仕事をするのだった。
「俺はまだ下っ端だし子供もいないし。子供さんの学校の休みに合わせたい人がいるから。」
その頃夫はそう言っていた。
だからわたしは「うちも偉くなったり子供が生まれたりしたら
休みを取るようになるんだな」と思っていた。
でも、そうはいかなかった。
子供が生まれても、夫が出世して偉くなっても、
夫の仕事のやり方は全く変わらなかった。
そして、仕事でのストレスを家に持ち帰って来る。
夫が帰宅した途端、家の中の空気がピリピリする。
不機嫌そうな顔のまま、むっつりと無言で食事を済ませ、
あとはゲームをしたり、録りためた格闘技の番組を見たり。
ちょっとでも何か意見したりすると、すぐキレそうになるので、
何か言うときには言葉を選びに選んで、顔色をうかがいながら言わなければならない。
夫は今でもなぜか娘の数学を見てやるのだが、娘いわく「ホントは時間の無駄なんだ。
でも、お父さんが楽しみにしてる風だから、お付き合いしてるんだけど。」
 
仕事先に忘れ物を届けた時のことが忘れられない。
職場での夫は信じられないくらいにこやかだった。
「この人、実はこんな顔して笑ってたんだ!」と妻であるわたしがショックを受けたくらい。
一日中、あんな顔をして、言いたいことも言わずに我慢して、
必死で「いい人」「理解のある上司」「温和な上司」を演じているのか・・・。
もう、夫のことはどうしようもない、とその時思った。
夫は仕事先でいい人も、笑顔も全て使い果たして帰って来るのだ。
「家庭」と「仕事」、「あれか、これか」の天秤にかけたとき、
夫は明らかに「仕事」を選んだのだから致し方ないんだなあ、
とわたしは悟ってしまったのだった。
 
「あたしも進学するために家を出ちゃったら、お母さんはお父さんと二人暮らしになるんだよ。
大丈夫なの?あたしだったら、お父さんと二人っきりなんて、
まっぴらごめんだけどさ。」と娘が時々言う。
だからこそ、今からボランティアしたり、落語に手を出したりしてる面もあるんだけどね。
子供が生まれるまで、社宅で一人ぼっちだった経験が本当に応えたから。
 
それにしても、よその家の旦那さんたちってどうなんだろう?
家でも笑顔だったり冗談を言ったりしているんだろうか。
それとも、どこの家の旦那さんも、家では「搾りかす」状態なんだろうか・・・。