まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

加藤治子さん逝く

女優の加藤治子さんが今月2日に亡くなったそうだ。
享年92歳。

若い世代には「ハウルの動く城」や「魔女の宅急便」などでの
上品な老婦人の吹き替えでお馴染みの加藤さん。
以前はお正月に放送されていた「向田邦子スペシャルドラマ」で
母親役をなさっていた。

わたしの印象に残っているのは、
結核を患い余命いくばくもない娘を抱えた母親役を演じられた時のこと。
「憧れの人をもう一度、ひと目でいいから見たい」という娘の願いを叶えようと奔走するのだが、
その相手の大学生(だったと思う)にすげなく断られてしまう。
そこで、母は学生服とマントを身につけ、
娘が見守る窓の下を疾走するのだ。
「ああ、あの人が自分のためにわざわざ来てくれた」という思いを抱いて娘は亡くなる。
(うろ覚えなので、確かこんな内容だったような・・・汗)
マントを翻し(顔が娘から見えないように)、娘のために走る母親(=加藤さん)。
そのシーンが強烈な印象となって心に焼き付いている。

以前も別の記事にしたけれど、
恒例だった向田邦子さんのドラマが無くなってしまった理由(だと思う)は、
加藤さんが母親役、田中裕子さんが娘役を演じるには
それぞれお年を召してしまったからではなかったか。
キャストを一新してドラマが数作作られたように記憶しているのだが、
戦前のいい暮らしをしていた家庭の人が使っていた日本語(お母さま、お父さま、など)が、
すっかり浮いた感じになり、いかにも「台詞として言わされてます」然としてしまっていた。

加藤さんはそういう美しい日本語をさらりとお話しになれる方だった。
美しい日本語自体、風前の灯火となってしまっている中、
また惜しい方が旅立ってしまわれたことを残念に思う。