まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

幾重にも張り巡らされた「優しい嘘」~「Dearフランキー」をみた~※ネタバレ注意

某レンタルDVD屋さんで80円レンタルを行ってたので、
たまたま目に付いたこの作品を借りて見た。
なかなか良かった。
わたし、この映画大好きだなあ。
 
内容をざっくりまとめると・・・。
(以下ネタバレゾーン  注意!!!)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
聴覚障害を抱える9歳の少年フランキーは母リジー、祖母ネルと3人暮らし。
DV男の父デビイから逃れるため、スコットランドを転々としながら暮らしている。
しかし、リジーはフランキーに本当のことを言えず、父親のことを
「外国航路の船に乗っていてなかなか帰って来ない」と嘘をつき、
その父親になりすまして息子と文通している。
グラスゴーに転居してからのこと。
父親が乗っているとでっち上げた船が、グラスゴーに寄港することになり、
フランキーは父親が会いに来るかどうかいじめっ子のクラスメイトと賭けをしてしまった。
それを知ったリジーはお金で一日だけの「代理父」を雇うことを決意。
パート先の経営者マリーの知り合いだという男性がやって来たのだが・・・
 
・・・とまあ、こういうお話。
 
見終わって感じたことは、「上品で落ち着いた、ターナーの水彩画みたいな映画」ということ。
フランキーが聴覚障害という設定に加え、リジーも「代理父」も決して饒舌な人たちではないので、
この作品は台詞が非常に少ない。
さらに、台詞で全てを説明するのではなく、沈黙や余白で観客に想像させるタイプの作品のため、
なおさら台詞が非常に少なくなっている。
見る側が登場人物たちのちょっとした視線の動きとか仕草などから、
自由に想像する余地がある映画だと思った。
そして、温かい人たちが沢山出て来る優しい作品だと感じた。
フランキー(実は実父デビイの暴力で聴力を失った)を守ろうと必死のあまりリジー
誰のことも信用出来ない、頑なな女性になってしまっている。
自分たちの周りに高い壁を巡らせて、誰もその中に入れようとはしない。
そんなリジーにまず手を差し伸べるのが雇い主のマリーだ。
それから、「代理父」。
彼はたった二日(一日だけ、という約束だったのだが、「もう少しフランキーと過ごしたい」と
一日延期することを彼の方から提案した)過ごしただけだったのに、
フランキーにもリジーにも、今までの自分から抜け出して前進する勇気を与えて去って行った。
(しかも、結局無報酬で)。
武骨な荒くれ者、といった外見からは予想出来なかったことだけど、
彼は優しくて温かくて誠実な、リジーが昔夢見た通りの「白馬の王子様」だったのだ。
彼から勇気をもらったことで、リジーは重病のデビイに会いに行く決心が出来た。
一度は口汚く罵られ、逃げ帰って来る事態になったけれど、
フランキーに本当のこと(「パパは死にかけているのよ」)を話すことが出来たし、
フランキーの写真と手紙とを瀕死のデビイの許へ届けることが出来た。
そして、もう父親になりすまして嘘の手紙を書く必要もなくなったのだが・・・。
 
ネットでこの作品の感想を読むと、「フランキーは一体いつリジーの嘘に気付いたのか」
という疑問を投げかけている方がとても多かった。
わたしは、実は相当前から知っていたんじゃないかと思う。
フランキーはとても賢い少年だから、手紙の筆跡と母親の筆跡とが同じだということに
気付かない訳がないと思うし(何せ今どき手書きの手紙だったから)、
外国からの手紙なのにイギリス国内の消印が押されているのにも疑問を持ったかもしれないとも思う。
そして、何より彼は読唇術の名人ということなのだから、
深夜リジーとネルとが実の父親について話しているところを、何かの拍子に物陰から見たことが
無かったとは言い切れないだろう。
それでも、フランキーは母親の優しい嘘に優しい嘘で応え続けた。
それはなぜか?
フランキーはリジーを守らなきゃいけないと思ってたからじゃないかなあ。
言葉を発することが出来ないフランキーの「声」が唯一聞けるものとして、
ジーが手紙のやり取りを心の支えとしてたことに気付いていたから。
「代理父」がリジーに「キミは日々フランキーを守ってやっている」と言っていたけど、
実はリジーの方こそフランキーに守られていたのかも知れない。
デビイが亡くなったあと、私書箱に届いていたフランキーからの手紙に、
「大丈夫、ママには僕が付いてる」という一文があったけど、
その言葉どおりに、、男の子って母親を守ろうとする生きものだと思う。
たとえ、障害を持ってたり年端も行かなかったりしてたとしても。
東日本大震災のとき、仙台の両親と全く連絡が取れず、
「おじいちゃんたちが死んじゃったかも知れない」とわあわあ泣いていたわたしの両肩に手を置いて、
「おじいちゃんがこんなことくらいで死ぬわけないよ。
心配いらない。第一、○○(娘のこと)が不安になったら困るんだから、
お母さんがしっかりしなくちゃダメだよ」と当時高1の息子が優しく諭してくれたなあ・・・)
 
大事件が起こる訳でも、リジーと「代理父」が劇的な恋に落ちる訳でもなく
(お互い好意を持ったということは最後に交わした淡い口づけから分かるけど)、
淡々としたトーンの作品だったけど、わたしはとても気に入った。
ちなみに「代理父」の役を演じているのは「300 スリーハンドレッド」でムキムキの王様役だった
ジェラルド(ジェラード、じゃないのかな?)・バトラー。
器の大きいゆったりとした優しい男の役にぴったりだと思った。
気持ちが疲れているときなどにとても心癒される映画だと思うので、是非。
特に男の子をお持ちのお父さんお母さんにお勧めしたいと思う。