まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

Yさんの小さな願い

体調を崩したり私用が立て込んだりして、
2回分、期間にして1ヵ月ほどボランティアを休んだ。

しばらくぶりに参加した先週金曜のこと。
「・・・久しぶりだったこと~。
もう来てくれなくなったのか、それでなければ体でも壊したのかと思ってた~」。
車いすに乗ったYさんはわたしの手を両手で握り涙をこぼした。

3年半前にホームへ伺うようになった時から、
Yさんはわたしのことを本当に可愛がってくださった。
伺うたびに「元気にしてた?来てくれてホントに嬉しい!」
そして、「風邪ひいたりしなかった?」「夏バテしたりしてなかった?」
「少し痩せたんじゃない?ご飯ちゃんと食べてるの?」
「顔色悪いんじゃない?疲れてるんじゃないの?」と実の母より心配してくださるので、
わたしは嬉しいのとくすぐったいような気持ちとが入り混じった感じになってしまうのだった。
(実際実の母にはそんな風に心配してもらったことは最後までなかった)。

Yさんは、今わたしが住んでいる県の北の外れの方の出身のおばあさんだ。
そこは山深い集落なので「じゃあ、山菜採りとかキノコ狩りとか、
お小さい頃からなさってたんですね?」と尋ねたら、
「いや~、あたしはそういうことするの、昔っから嫌いだったから・・・」とYさんは笑った。
どんな風にして知り合ったのか、転勤族の男性と結婚して集落の外に出、
ダンナさまに付いていろいろな場所で暮らしたそうだ。
ダンナさまの定年後「ここがいい」と二人で気に入った町で暮らしていたのだが、
残念ながらパートナーに先立たれてしまい、老人ホームへ来ることになったのだと言う。
「優しいひとでね、楽しかったの、うーんとね。でも、先に逝ってしまったから・・・」
いつも柔らかい微笑みを浮かべているYさんが、
ダンナさまの話をする時はいつも泣き顔になる。

先週金曜の話に戻って。
冬が長いこの町にも桜の開花宣言が出た直後だった。
「桜はもう咲いたのかね~」とYさんが言うので、
「日当たりのいいところではだいぶ咲きました。
梅はもう満開、ちょっと散り加減ですし、レンギョウスイセンモクレンも花盛りですよ」と答えると、
それを聞いたYさんは「はあ~」とため息をついて目をつぶり、
「おにぎり1個でもいいから持って、一緒にお花見に行けたらどんなに楽しいか・・・」と言った。
そして、悲しそうな顔をしながら、
「おにぎり1個どころか、紅茶の1杯も出してあげられないんだもの・・・。
こんなに年取って、情けない」と言い、またちょっと涙をこぼしたのだった。

一緒に外出は無理でも一緒に食事くらい、と思うが、これがなかなか難しく・・・。
老人ホームの職員さんたちの負担になってはいけないので、
「お弁当持ってくるので一緒にお昼食べてもいいですか?」とも聞けずにいる。
Yさんの小さな願いを叶えてあげたいのは山々なんだけど。
ボランティアの立ち位置って結構微妙なもので、
「ご迷惑にならないように」というのを最優先しなくてはならないからね。