まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

通院日前日、レビー小体型認知症の義父は絶好調でした

今日は2か月に一度の通院日だった。
通院のことは改めて記事にすることにして、
昨日の様子を忘れないよう記事にしておく。

昨日、通院に一緒に付き添いしてくださる職員さんに連絡しがてら、
老人ホームに行った。
「会って行ってください」と言われたので義父に面会した。
義父は部屋のベッドで寝ていたが、わたしの顔を見た途端、
表情がパッと変わったのでわたしを顔見知りだと認識出来たことが分かった。
その上で、工務店の関係の人だと思ってるのか、
それとも長男の嫁だと正しく認識出来てるのか、
それによって「コウセイさん」と呼びかけるのか、
「お義父さん」と呼びかけるのかが決まって来るのでちょっと迷っていたら、
義父が「なんだ、ご飯の支度だので忙しいとこ来てもらって」
と言いながらニコニコしたので、
「いえ、大丈夫ですよ、お義父さん」と答えて反応を見た。
義父の表情に不安そうな色が浮かばなかった
(=お義父さん、と呼ばれた理由が分かった?)のを、
わたしを正しく認識出来た証拠と思うことにした。

「お変わりなくお過ごしでしたか、お義父さん?」と尋ねたら、
義父は「うん、でも何だか映画の撮影があるらしくてガサガサしてるんだ」と言う。
「へえ、映画の撮影ですか。どこで撮ってるんですか?」と聞いたら、
窓の外を指しながら「あそこ、ほれ、あそこだ。何か映画に使うものを作ってるんだ」
ホームの駐車場で工事をするらしく、義父が指した先には、
ブルーシートで覆われた資材のようなものと、傍らにクレーン車とが見えた。
「ああ、映画のセットを作るんですね!誰か映画に出るんですか?」とさらに聞いたら、
「あそこにいるのは、全部エキストラみたいだ」と言いながら、
食堂に集まっていたホームの入居者を示した。
「あんなにたくさん!お年寄りが多いですね。
お義父さんもエキストラなさるんですか?」と言うと、、
「いや、俺はやらない」。
「あの人たちはあそこでいつも打合せしてるんだけど、
俺はエキストラはやらないから、打合せに出ないでここに居るんだ」と言いながら、
義父は腰かけたベッドをポンポンと叩いて示した。

突然、義父は「あっ、写真、写真」と言いながら立ち上がり、
居室の隅に3段ほど積んである衣装ケースの引き出しをあけた。
積んであるとは言え、帰宅願望の激しかった義父があまりにも荷造りしてしまうため
(しかも、汚れた服なども構わず全てごちゃませにして荷造りするため)、
ほとんどの荷物はホームが預かって管理してくれているので、
最上段にちょっとばかりの私物が入っているだけで、
下の2段は空っぽなのだが。
義父は血相を変えてガサゴソやりながら、
「写真、やっぱり写真がない・・・」と言う。
何だかちょっと風向きが怪しくなった感じだったので、
何とか気をそらさなければ・・・と焦ったわたしの目に古ぼけたアルバムが飛び込んできた。
パラパラしてみると、相当古そうな白黒写真が数枚。
・・・ひえーっ、このおチビチビがうちのダンナ?!
このダイママイトボディの女性はお義母さん?!
この赤んぼちゃんは、ダンナの妹なの?!
「わあ、こんな写真、わたし初めて見ました!もうびっくり!
これって、マサヒロさん(うちのダンナのこと。もちろん仮名)ですか?!」
と義父に尋ねたら、「そうだ。これがマサヒロ、これが〇〇(義妹)、
それでこれが×子(義母)だ」と写真を指差しながらスラスラと答えた。
「珍しい写真なので、うちの子供たちにも是非見せたいです。
携帯電話で写真を撮っても構いませんか?」と言ったら、
「いいよ、いいよ」とニコニコ。
ついさっき不穏になりかけだったのが嘘のように上機嫌になった。

通院日前日に疲れさせても・・・と思ったので暇乞いする。
入居者が集まっている食堂では、誰からともなく「天然の美」を歌う声が広がっていた。
「お義父さんもどうですか?」と誘ったけれど、
「俺はここにいることにする」と義父。
「扉はどうしますか?歌が聞こえるように開けておきますか?」
「いや、閉めて帰ってもらいたい」
引き戸を閉めながら見たら、義父はもうベッドに横になって布団をかぶってしまっていた。

帰宅した夫に義父の様子を話したら、
「そう言えば親父は、若い頃伴順三郎の映画のエキストラやったことが何度かあったらしい。
東京の大学に通ってた頃、バイト代わりに何度か出たことがあるって言ってたな」
そうか、その時の記憶の一部がホームの駐車場にあった資材をきっかけに蘇ったのか。
まるきりとんちんかんな話ではなかったんだな。
そう言えば、以前ホームの職員さんから、
義父が自分の居室以外に二部屋を「ここも俺の部屋だ」と言って勝手に出入りしたり、
そこの居室の借主に「勝手に人の部屋に入るな」と言ったりしてトラブルになっている、
という話を聞いたことがあったっけ。
それも、義父は居宅の他に、工務店と、作業所と、二軒家を持っていたからだったのか。
職員さんから聞いた時には「認知症がイヤな進み方したなあ」と困惑しただけだったけれど・・・。

認知症の認知の歪み方って、時空がねじれちゃったみたいな、
記憶や場所などの断片が、間違ったつなぎ方をされた感じになってる気がする。
まるきり「無」から出て来たものではなく、
その人の中にある記憶の断片がめちゃくちゃなくっつき方をしてる感じ。
共に過ごした時間が長い家族なら「そうか!」と分かることでも、
わたしはただのお嫁さん、赤の他人だから分かってあげるのに時間がかかるんだよね。
でも、義母がもし面会したら・・・。
「訳の分からんことを言うんじゃない、この親父は!」
ってなことを面と向かって言ってしまうだろうからなあ。