まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

全力でオススメしたい一本です!~「アンコール!」を見た~

「全力でオススメしたい」と書いておいて、
初っ端から文句なのですが。
この邦題はカスです。
ひど過ぎ。
原題は'Song for Marion ' 、「マリオンのための歌」。
「マリオンのために」とか何とか邦題の付け方を
もうちょっと工夫して欲しかったですね!
「アンコール!」って何だか安っぽい音楽もののニオイがプンプン。
(わたしは、「歌わにゃならん理由が出来た」というコピーと、
そこに添えられていた仏頂面のじいさんのスチル写真に惹かれて借りましたが、
題名だけなら絶対にそそられなかったと思います。)
 
この映画、見た方はあまりいないと思うので、
ネタばれを極力避けつつ魅力をお伝え出来るよう努力しますね。
 
物語の主人公はアーサーとマリオンの老夫婦。
マリオンはガンを患ったらしく、化学療法で一度抜けたらしい髪がツンツン伸びていて、
車いすに乗っています。
でも、明るくて歌うのが大好き、老人の合唱団に参加しています。
(この老人合唱団のレパートリーが、ものすごくぶっ飛んでいてびっくり。
イギリスでは老人もああいう曲を歌うのかなあ、しかもものすごく楽しそうに!)
連れ合いのアーサーはマリオンとは正反対、
いつも仏頂面でタバコをふかしている、気難しいことこの上ない老人です。
二人にはジェームズと言う息子とジェニファーという孫がいます。
二人ともジェニファーのことをとても可愛がっていますが、
アーサーとジェームズは折り合いが悪く、どうしてもぶつかってしまいます。
マリオンが参加している老人合唱団がコンクールに参加することになりますが、
そんな折マリオンのガンが再発、そして・・・。
 
というようなお話なのです。
アーサーを演じるのはテレンス・スタンプ
マリオンを演じるのはヴァネッサ・レッドグレーブ。
名優の素晴らしい演技もさることながら、脚本が本当に素晴らしい。
下手をすれば「お涙頂戴」になってもおかしくないシチュエーションの作品を、
全編上質なユーモアで包み、本当に素敵な愛すべき作品とした脚本に脱帽です。
 
ネタバレを避ける、とは言いながら一つだけ心に残ったことを。
マリオンのガンが再発し、「また化学療法ですか?」と尋ねたアーサーに医師がこう答えます。
「それはマリオン次第ね。
苦痛を伴うし、進行を遅らせることしか出来ないのよ」と。
そして、「Chips and icecream 」(ポテトチップスとアイスクリーム)と言うのです。
意味が分からず怪訝そうなアーサーとマリオンに医師は、
「治療法がない時は、家に帰って好きなことをするの」と説明します。
それを聞いたマリオンは傍らのアーサーの耳元に口を寄せ、何事かささやきます。
そしてアーサーは医師に「彼女はアイスクリームが好きだ」と告げるのです。
 
「死とは医療行為の敗北を意味するものではなく、
人生最後の行為である」とは、
「パッチ・アダムス」として有名なアメリカの医師ハンター・アダムスの言葉です。
そして、その著作の中で不治の病に侵された青年の言葉として紹介されているのが、
「一番悲しいことは、皆がボクをもう死んだ人のように扱うことだ」という言葉。
余命を宣告され、治療法はないと告げられたとしても、
残り時間はゼロになった訳ではないのです。
この映画の中でマリオンは家に帰り、人生の残り時間を精一杯楽しみます。
それを全力で支える家族、そして合唱団の仲間たち。
しかし、この作品はそういう「明」の部分だけでなく、
「暗」の部分もきちんと描いています。
愛するものが日ごとに弱り、
一歩一歩死に近づいて行くのを直視し続けなければならないものの身を切られるような辛さ、、
愛するものを置いて逝かなくてはならないものの辛さ、
そして遺されたものは愛するものを失ったあとも、
どうにかして生きて行かなければならないという辛く厳しい現実。
そういったものをも、丹念に丁寧に描いて行くのです。
この作品を見ていて、わたしは何度声を上げて泣いてしまったか分かりません。
母を失ったあとの父が、
たった一人の家でどうやって過ごしていたか、どんな気持ちで過ごしていたかを
まるで追体験しているかのような気持ちにさせられたからです。
 
・・・何だか見るのが辛い映画みたいな紹介になってしまっていますね。
でも、心配ご無用、見終わった後心に残るのは、
本当に爽やかで温かい気持ちだけですから。
 
本当はもっともっと書きたいことがあるのですが、ここらでやめておきます。
映画をこれから見る方の楽しみや感動を薄れさせてしまっては申し訳ないですからね。
でも、これだけは言わせてください。
絶対、絶対、オススメの一本です。
どなたにも、全力でオススメさせてください。
 
最後にもう一つだけ。(←刑事コロンボかい!)
テレンス・スタンプ、本当に素敵なじいさんです。
禿げてても、愛想が悪くても、めったに笑わなくてもOK。
この映画を見たら、ますますイギリスに一度行ってみたくなりました。