まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

共依存

「施設に慣れるまで、しばらくの間面会を控えてください」
老人ホームからそう申し入れがあった。
週に2度洗濯物を引き取りに行く際には義父の顔を見ずに
汚れものと洗濯済みのものとの受け渡しだけするように、
職員に何か話がある時には居住階へ行かず、
職員を1階へ呼び出して話をするようにと。
 
でも、義母は何度事情を説明してもダメなのだ。
ホームへ行き「(自営業の)事業のことで相談があるから会わせて欲しい、
事務所の存亡にかかわる重大事だから絶対会わなければならない」
などと言っては義父に面会する。
事業のことを一応話すようだが、当然義父は話の内容を理解する力も、
増してや相談に乗る力もすでに失くしてしまっている。
しかし、義母は「まるきり分かってないって訳じゃないから」
「知らないうちに何か勝手なことをすると後で(義父が)怒るから」などと言っては
何度も何度もホームへ行き、理屈を付けては義父に会うのだ。
義母が帰った後、義父は「かあちゃんがいなくなった」と言いながら
ホームの中をウロウログルグルと探し回り、職員が制止しようとすると暴れたりするのだそうだ。
一度だけだが居住階のベランダから「飛び下りて家に帰る!」とやったこともあったそうで。
その度にわたしのところへ連絡が来る。
「お義母さまのことなんですが・・・ちゃんとお話してくださっているんですよねえ?
今日もまたいらっしゃいまして・・・面会させてくれと粘られました。
お義母さまが帰られたあと、またひどい興奮状態になりまして・・・。
どうしても薬を使うことになりますので・・・お義母さまに今一度お話ください」
 
肋骨にひびが入ったり、耳の鼓膜が破れたりするような暴力、
全人格を否定し、義母を嘲笑し罵倒するような悪口雑言・・・。
結婚以来50年の長きにわたって義父からのDVに苦しんでいたというのに、
なぜ面会したいと義母が日参するのか?
これを心理学では「共依存」と呼ぶそうだ。
義母の場合「DVに耐え続ける自分」というのがアイデンティティとなっており、
「あの人にはわたしが絶対必要」という気持ちを自身のよりどころとしてしまっているらしい。
加えて、義母が自ら口にした通り「後でひどい目に遭う」という恐怖心も強いようだ。
 
週末になるたびに夫が実家へ泊りに行き、義母の説得を続けている。
昨日も泊りに行った夫が、仕事へ行く前にアパートに寄ったので首尾を聞いた。
義母はようやく「分かった」と言ったそうだ。
義父の執念深さ、恨みや復讐心の異常な強さを知ってるだけに、
「後で何をされるか」と考えたら恐ろしくてついつい足が向いてしまっていたけれど、
来月の精神科の受診日までもう会わないことにするから・・・と。
 
男の人みたいなサバサバした性格で、大雑把且つ豪快な女性に見える義母だけれど、
義父から受け続けたDVが「見えない鎖」になって
義母を義父に強固につなぎとめてしまっているのだなあ。
こう言ってはなんだけれど・・・やっぱり義父が大っ嫌い。