まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

パラソルとレースの手袋

「差すだけで体感気温が5度下がる」

という日傘を持っている。

分厚い生地で出来た 裏が銀色の日傘。

いかにも「UVカット」の実用本位

優雅とはほど遠い代物だ。

亡くなったかあさんはずーっと昔から日傘を欠かさないひとだった。

生成りや黒のレースの日傘。

それはむしろ「パラソル」と呼ぶに相応しいものだった。

カットワークや刺繍の施された生地と 美しい房の付いた木の柄と。

かあさんはレースの手袋も欠かさなかった。

生成りのパラソルの時には白い手袋

黒いパラソルの時には黒い手袋。

暑い盛りでもきちんとストッキングを穿き

ヒールの音をさせて歩くかあさんの傍らで

「あんたも影に入りなさい」と注意されながら

必死で歩いていた幼い日のことを覚えている。

かあさんが嫁入りのときに持ってきた洋服ダンスの小さな引き出しには

レースの手袋が何組もきれいに畳まれて入っていたっけ。

時折それをこっそりと手にはめて 鏡に自分を映して見ては

そこだけ大人になったような気分になったものだった・・・。

あの頃のかあさんより ずっと歳を取ったけれど

やっぱりレースの手袋は似合わないまま。

実用本位の日傘を差して スニーカー履きで歩いている。

優雅な女性には なれなかったな。