まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

かあさんの手

「わたしの手、働きものだったと思わない?」
 
病院の待合室で、かあさんが言う。
 
 
・・・働きもの?
 
ううん、違うよ、かあさんの手はね、「魔法を生み出す手」だったよ。
 
泥だらけの野菜が、丸ごとの魚が、
 
目にも美味しい料理になった。
 
古ぼけたとうさんのセーターが、大安売りの布地が、
 
友達もうらやむ素敵な洋服になった。
 
そうやって魔法を生み出して、生み出して、生み出し続けて・・・。
 
とうとう、かあさんの手は動かなくなった。
 
元通りにする方法は、お医者さまにも分からないと言う。
 
すっかり小さくなった背を丸め、うつむいて椅子に座っているかあさん。
 
 
わたしの手、魔法は生み出せないけれど、
 
「ありがとう」の気持ちならきっと伝えられる。
 
心をこめてかあさんの手をさすったら、
 
かあさんは顔を上げてちょっと笑った。
 
 
*「手根管症候群」と診断されて二度手術を受けたかあさんでしたが、
結局利き手は元通りに動くようになりませんでした。
その時のことを詩のようなものにしてみました。
あの時、ちょっとだけ笑ったかあさんの顔を今になって時々思い出します。