まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「ストレス」が地球をダメにする~「美味しんぼ」騒動に思うこと~

作者はきっと「正義感」に突き動かされて描いたんだろう。
「国や東電が隠している『フクシマの真実』を、
自分が描かなくては」とでも思ったのだろう・・・とは思う。
 
でも、あれはやはり良くなかった。
と言うよりは、やってはならないことだったと思う。
 
理由はいくつかある。
 
まず、根拠のないことをさも根拠があるかのように描いたこと。
(これが一番大きい)。
双葉町長が鼻血の理由を「被ばくしたからですよ」と語ったことを
「これこそが真実」のように描いてしまっているようだが、
当事者だからと言って全てが分かる訳ではないはず。
(お腹が痛いからと言って、なぜお腹が痛いのか本人が必ず分かる訳ではない。
もしみんな自分の身体のことが全て分かるなら、
人間ドックとか必要がなくなるではないか)。
福島に住んでいる人たちの中に、原因不明の疲労感などを覚えている人が
少なからずいるからと言って、その理由が「被ばく」であるとするに足る、
科学的根拠はないのである。
 
それから、福島に住んでいる人たちに、
要らない不安感を植え付けたこと。
多分、福島ではこれから数十年に渡って「ガン」などの疾病が増えるだろう。
しかし、それがイコール「被ばくしたから」ということにはならないと思う。
福島の人たちは、心無い風評に踊らされ、不安でいっぱいで暮らしているそうだ。
(福島からそう遠くないわたしが今住んでいる町にも、
福島から避難して来ている人たちが何人かいる。
時折地元の新聞にその人たちのコメントなどが載っているのだが、
「メンタル的にちょっと危うくなっているのでは?」と思うことも少なくない。
「福島出身」と言った時の相手のちょっとした仕草や表情などにも
過敏とも言える反応をしてしまい、「子供がいじめられた」「差別された」
「福島出身だから〇〇された」のように何でも結び付けて考えてしまう人もいるようだ。)
「フクシマ」出身ではない、私たちには想像も出来ないくらいの「ストレス」が
福島の人々を日々苦しめ続けているのである。
 
森高千里はかつてこう歌った。
「♪ストレスが地球をダメにする」
女も男もやる気も、すべてストレスがダメにする、と歌った森高千里は正しかった(と思う)。
福島で尋常でない疲労感に苦しんだり、原因不明の鼻血を出し続けたり、
ガンにかかったりする人が増えているのだとしたら、
そのほとんどは「ストレス」が原因なのではないだろうか。
(テレビで見たけれど、福島に住んでいるお母さんが子供に向かって、
「あなたがいつの日か甲状腺ガンになるんじゃないかと思って、ママは心配なの!」
と言いながら泣いていた。
・・・でも、それをお母さんに繰り返し繰り返し言われることによって、
子供が被るストレスの激しさとそれがもたらすものについて全然分かっていないようだった。
ストレスはナチュラルキラー細胞の働きを低下させ、
日々体内で作りだされるガン細胞をやっつけられなくさせるというのに。)
 
「ストレス」がどれだけ恐ろしいものかと言うことを、
わたしは父の最後の半年間を見て痛感した。
食べてもそれを消化することも吸収することも出来なくさせ、栄養失調で全身浮腫を起こさせ、
免疫力の低下した身体にちょっとした傷から
蜂窩織炎(ホウカシキエン)」という恐ろしい合併症を起こさせた。
最後はほんの数か月前まで何の異常もなく暮らしていた父にくも膜下出血を起こさせた。
父の死因を医師は「くも膜下出血、脳血管攣縮とそれに伴う脳梗塞」と書いたが、
実はそれを起こさせた根本的な原因は「ストレス」だったと思う。
 
東日本大震災から3年以上、福島の人々が受け続けて来た「ストレス」の激しさを思えば、
原因不明の数々の不調(疲労感や鼻血も含めて)が多数の人々に現れても、
何の不思議もないことだと思われる。
それを「被ばくしたからだ」と決めつけ、「福島に人が住めるようにするのは無理」
と一層「ストレス」を強くさせるようなことを描いた今回の騒動。
やはり、良くなかった、と言わざるを得ないと思う。
 
松本人志氏が今回の騒動に関して、
「漫画に関しては漫画家が神なんだから、
何を描いても神に文句をつけるべきでない」という主張をしたそうだ。
それはどうかな?
社会に対して影響力を持つものを発信している人たちは、
自分が発信したものが社会に与える影響について何らかの責任を負わなければならないはず。
自らが責任を負うことが出来ないくらい多大な影響を与えるものについては、
余程の裏付けや確信、客観的事実であるという証拠がない限り、
社会に対して発信すべきでないのではないだろうか。
「神」は何の責任も負わなくていいが、「人間」は常に責任を負う義務があるのだから。
(関係のない話だが、松本人志氏が売れなくなって来た理由は、
傲慢になってしまったからなんじゃないかな。
誰にも理解不能な映画を撮っておいて「俺は神なんだから文句あるか!」ではねえ。)