まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

娘の片思い

娘の衝撃の恋のお話、
もうそろそろ時効だと思うので…。

数年前、当時高校生だった娘は「恋」を経験しました。
でも、片思いのお相手は意外過ぎるほど意外な人だったのです。

学校の長期休みを使って、
娘は2週間ニュージーランドへ短期留学しました。
ホストファミリーのお宅に滞在しながら、
現地の高校に通って授業を受けるプログラムでした。
学校へ通ったのは実質10日前後でしたが、
美術の授業で先生から「Amazing ! 」と褒めちぎられたり(!),
数学の授業で「Fabulous ! 」と褒めちぎられたり(!)、
第2外国語として日本語を取っている子たちの授業のお手伝いをしたりして、
非常に楽しい経験をしたそうです。
(地元でも有名な、校則の厳しい学校に通っていたため、
自由すぎるほど自由な向こうの学校の様子に
少なからず衝撃も受けたようでしたが)

でも、娘が最も楽しかったのは、
ホストファミリーと過ごした時間でした。

ホストファミリーにはまだ小さなお子さんが3人。
大きな木の枝から吊るされたブランコがある広い庭、
2匹の犬、古いけれど大きな家。
初めて受け入れた留学生がうちの娘だったというご一家は、
本当に温かく娘に接してくださったのです。
お子さんたちと一緒に様々なところへ連れて行ってくださったり、
お料理上手なホストマザーが自慢料理を作ってくださったり…。
最初は「あまりにも学校で習っていた英語と発音が違っていて、
数日間は犬と遊んでばかりいた」という娘ですが、
本当に本当に楽しい思い出をたくさん作って帰国することが出来ました。

娘の片思いのお相手は、高校で知り合ったカッコいい男の子
…ではなく、ホストファーザーでした。
娘からそう告白されたとき、わたしは正直言って驚きました。
「だってね、ジョージは5時頃家に帰って来たらすぐ、
『ただいま、僕の宝物たち!』って言いながら、
走って出迎える子供たちを大切そうにハグするんだよ。
それから、庭で子供たちと一緒に夕飯ができるまで遊ぶの。
ご飯の最中に電話がかかって来ることがあったんだけど、
全然出ようとしないから『電話、鳴ってますけど?』って言ったら、
『今は家族と過ごす時間だろ?その時間は誰にも邪魔させないんだ』って
答えたんだよ!
食事の後片付けはジョージの仕事で、その間はメアリーを
休ませてあげるの。
子供たちを寝かせたら、あとは『夫婦の時間』ってことで、
2人でワインなんか飲みながら、話したり、テレビを見たり。
その様子が本当に楽しそうで幸せそうで…。」
そして、娘はちょっと涙声になりながら、
「あたし、ものすごくショックだった、ああいうお父さんが
いるってことが!」と言ったのです。

わたしは、娘のその言葉を聞いて非常に複雑な気持ちになりました。
だって、うちの夫とほぼ正反対と言ってもいい感じだったからです。
亡くなった義父も家庭の内と外とで全く別人になる人でしたが、
夫も人当たりの良い家庭の外での顔と、
内での顔とが全く違っています。
夫が帰宅すると家の中の空気がピリピリとした感じに変わります。
さらに、大事な事柄はほとんど夫の独断で決まってしまい、
わたしたちが時間を掛けて考えたことも
「必要ない」「俺はそうは思わない」の一言で却下されてしまうのです。
息子が小学校低学年になるころまでは、
激しい体罰もありました。

息子より4歳年下の娘は、そういう家庭の中にあって上手く立ち回り、
獲得した「お父さんのお気に入りポジション」に安住しているように見えました。
でも、それはあくまでも見かけであって、娘の本心は違っていたのです。
「…もちろん、何か言ったりした訳じゃないよ、
ジョージとメアリーは本当にいい親でご夫婦なんだから、
いつまでも仲良く幸せでいて欲しいと心から思ってる。
でも、自分が結婚するんだったら、ジョージみたいな人がいいっていう
気持ちを抑えられなかったのも事実なんだよねえ」

あれから数年。
芸術大学の2年生になった娘ですが、
「ジョージみたいな人」にはまだ出会えていない様子です。