まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「わたし、あまり長生き出来ないと思いますが」と言われたとうさんは・・・。

かあさんは結婚前とても病弱だったそうだ。
腎盂炎になったこともあったし、
肋膜炎になったこともあった。
「高校を卒業するまで、しょっちゅう学校を休んで家で寝てなくちゃならなかった。
1か月単位で休んだことも何度もあった」
本人からその類の話を何度も聞いた。
 
これは、かあさんが亡くなったあと、とうさんから聞いた話。
かあさんとお見合いをして、一回でキューピッドの矢でハートを射抜かれちゃったとうさん。
(「ちょっと物好き!」と正直そう思うが)
何回かデートをしたあと、「結婚してください」とかあさんに言った。
するとかあさんは、腎盂炎や肋膜炎の話をし、
「わたし、あまり長生きできないと思いますが、
それでもいいですか?」と言ったそうだ。
それに対してとうさんは、
「長生きできるように自分があなたのことを一生大切にしますから」
って答えたんだって。
 
「俺は、そう言われたから、一生懸命俺なりにお母さんを大事にしたつもりだった。
でも・・・たったの76歳で死んじゃったんだから、
俺の大事に仕方が足りなかったんだべなあ」
とうさんはそう言ってため息をつき、半べそをかいた。
 
とうさんは学校の先生をしていたけれど、
毎朝登校前に家じゅうの掃除をかあさんと一緒にしていた。
早起きして、家中にはたきをかけたり、ほうきで掃いたり、床を乾拭きしたり。
玄関から表の道路もきれいに掃き清めて、味噌汁に入れる味噌をすり鉢でゴリゴリして。
仏壇の水を替え、一日上げてあったご飯を下げて、合図の口笛を吹き、ご飯を雀にやって。
冬場ならいくつもあるストーブ全部に灯油を入れ、それから朝食を摂って登校していた。
「○○家(とうさんの家のこと)の男衆は働き者なのよね、きっと。
亡くなったおじいさんって人も家事をするのが苦にならない人だったそうだし」
かあさんがいつもそう言っていたから、てっきりその流れでしていたのだと思ってたけれど・・・。
 
「お母さんが少しでもくたびれないようにと思って、俺は毎朝掃除したりもしてたんだ。
でも、突然死んじゃったんだからなあ・・・。
俺のおふくろは、脳溢血で死んだし、おやじはタクシーにはねられて死んだだろ?
それで、お母さんまで、心不全で風呂で急に、だもんな。
俺の大事な人は、みんな突然死んでしまった。
俺は、俺は・・・たまらないよ」
そう言って目の前で嗚咽するとうさんに、
わたしはかける言葉がなかなか見つからなかった。
 
「違うんじゃないかな?
おとうの大事に仕方が足りなかったから76歳までしか生きられなかったんじゃなくって、
おとうが大事にしたからこそ、76歳まで生きられたんじゃないかな?
だって、おっかさんってさ、ものすごく病弱で、1学期間休まずに学校に行けたためしがなかった、
1か月単位で休んで家で寝てなくちゃならなかったことも何度もあったって言ってたよね?
それが、最後の方こそちょっと認知症っぽくなってたけど、
76歳で亡くなるその日まで元気に暮らせたのは、
おとうがおっかさんのこと、一生懸命大事にしたからだよ。
そうじゃなかったら、おっかさんはもっともっと早くに死んじゃってたと思うよ、おとう。」
泣きながらそうとうさんに言ったら、とうさんは
「あんたは優しいんだなあ」とだけ言った。
 
「あなたのお父さんは、ホントに立派な人だった。
あんなに立派な人はそうそういないと俺は思うよ」
わたしの夫は時々そう言うことがある。
(まあ、そのあとに必ず「それに引き換え、うちのアイツは・・・」という義父の悪口が続くんだけど)
・・・おとう、聞こえてる?
天国でも照れてるのかなあ。