まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

悪徳商法と両親

生活支援員の研修に行った。
高齢者や障碍者などを水際で被害から守るため、
悪徳商法についてのレクチャーを受けた。
送り付け商法やらSF商法(SF=新製品普及会なんだって!)やらの話を聞きながら、
わたしは亡くなった両親のことを考えていた。
 
わたしの両親は本当に昔から悪徳業者にカモにされていた。
わたしがまだ小学生だった頃の先物取引に始まり、
株、ソーラーシステム、ヤマメ養殖(これは父の元生徒にやられた)、
シロアリ駆除、床下換気扇、アムウェイ(これは姉の友人にやられた)、
ミシン、タッパーウェア、着物、そして水フィルターの掃除機。
両親はいったいどれだけのお金を失ったのだろう。
 
最初は先物取引だった。
ランドセルを背負って家に帰ると見慣れない男性が家にいた。
そして父がニコニコしながらこう言った。
「明日からうちは毛糸屋になるんだよ」
どうして?学校の先生を辞めるの?毛糸屋ってどこでするの?
次々尋ねたわたしに父は、
「毛糸屋と言っても書類の上だけの話で、本物を売る訳じゃないんだ」と答えた。
羊毛の相場に手を出した父は、すぐに数百万円の損失を被ったらしかった。
その損失を埋めるために、穀物の相場をやりましょう、
なーに、これっぽっちの損失なんかすぐ取り戻せますよ。
見慣れない男性はその後何度か家に来てそういう景気のいい話をした。
父は言われるがままにお金を出し、どんどん損失を重ねることとなった。
「あの人のせいでお金がどんどん無くなってねえ・・・」
暗い顔をして母がそう言っていたのを覚えている。
そのうち男性はぷっつりと姿を見せなくなり、
「毛糸」とか「相場」とか言う言葉はしばらく我が家のNGワードになった。
 
それから少しするとソーラーシステムのセールスマンがやってきた。
彼が言ってた言葉が忘れられない。
「太陽熱で沸かしたお湯で淹れたお茶は美味しいですよ~!」
世の中には屋根にソーラーシステムをつけてる家などまだ殆どない時代だった。
新しもの好きだった父は数百万円を投じて屋根にソーラーシステムを付けた。
しかし、真夏の太陽がギラギラの日でも、
太陽熱だけではお茶が淹れられるほどの熱い湯は沸かせなかった。
「ガス代がほとんど要らなくなります」という言葉も全くの嘘で、
真夏以外は風呂の湯も追い炊きしなければならない状態だった。
しかも、しょっちゅう機械が故障し、そのたびに高額な修理代がかかった。
父の機嫌を損ねるのが怖くて誰も言い出せなかったけれど、
父がいないとき、母と姉とわたしの三人は「騙されたんだよね」と言い合った。
 
その後も両親は繰り返し繰り返し悪徳業者の餌食になった。
父の元生徒や姉の友人などにもだいぶ食いものにされた。
そのころにはわたしもだいぶ大きくなっていたから、
アムウェイってマルチ商法なんだってよ。
○○さんには悪いけど、断った方がいいよ」などと忠告したこともあった。
でも、姉が友人をかばったり、父が元生徒をかばったりして、
結局ダラダラと金づるにされ続けてしまったのだけれど・・・。
 
最後は水フィルターの掃除機だった。
母が亡くなる少し前、実家の掃除を手伝いに行った時のこと。
若いわたしでも持ち上げられないような巨大な掃除機が、
実家の2階に鎮座していたのだ。
「あれ、どうしたの?あんなに大きな掃除機、誰が使うの?」と父に尋ねると、
「ああ、あれか。あれなあ、30万円以上したんだぞ。」という返事。
悪徳商法にやられたんじゃない!なんでそんなもの買うって言っちゃったの?」というわたしに、
「お母さんが説明を聞いてどうしても欲しいって言って聞かなくてなあ。
この頃お母さん、あれが欲しいとか全然言わなくなってたから・・・。」
その頃には母の認知症(だったと今は確信している)はだいぶ進んでしまっていて、
何かを欲しがったりすることもなく家に引きこもり状態になっていた。
そんな母が家に来た若いセールスマンのセールストークに目を輝かせ、
「高すぎる。そんなにいいものじゃなさそうだし」とそっと耳打ちした父の言葉にも、
「わたし、どうしてもこれが欲しいの。」と強硬に言い張ったのだそうだ。
父は騙されているのを承知の上で、母のためにと掃除機を買ったのだった。
年寄りの二人暮らしの家には訪ねてくる人もなく、
両親の生活は寂しいものだった。
特に、母が浮気した父への仕返しにと、
父の教え子たちにかつて父が浮気していたことをバラしてからというもの、
「先生がそんな人だったなんて、がっかりです」と生徒たちは一切訪ねて来なくなってしまったのだ。
例え悪徳商法のサラリーマンであっても、
訪ねてくれる人がいたというだけで、母は嬉しかったに違いない。
 
そういう人の弱みに付け込んで金もうけをして。
地獄に墜ちろ!と言いたいけれど。
「どんな儲け方をしようとカネはカネ、儲けたもん勝ち」というのが、
資本主義世界を実質的に支配しているルールだからね。
なんだか、考えると切なくなってしまう。
 
チャップリンは言った。
「人生に必要なものは、勇気と想像力、そして少しのお金」と。
そう、本当はお金は少しでいいのだ。
うっかりすると忘れてしまうことだけれどね。