まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

おおかみこどもの雨と雪を見た。(ネタバレあり)

子供たちと公開初日に「おおかみこどもの雨と雪」を見てきた。
 
涙もろいわたしは映画館で号泣しないように、
予め文庫版を読んでストーリーを知っていた。
それでも、結構初めから終わりまで泣き通しだった。
 
わたしがハッとさせられたのは、
泣き虫だった雨が「だいじょうぶ、だいじょうぶってして。」と母親の花に頼むところ。
うちの息子も小さかった頃「ぽんぽんが痛い」としょっちゅう訴えて、
一日に何時間も「いたいのいたいのとんでいけ~」ってしてやったことを思い出した。
 
花がおおかみおとこと恋に落ちるところは、
昔うちのダンナさまと付き合っていた頃を思い出して切なくなった。
わたしたちも大学で出会ったのだ。
そう、初めはあんな風に席一つ分空けて隣りの席に座ったりしたっけ。
あんな風に不器用な、でも後になって振り返るとなんとも切ない恋の日々。
忙しさに思い出すことすら忘れてしまってたけど。
 
子供たちが小さかった頃はそう、あんな風にとにかくくたびれて眠たくてたまらなかったっけ。
ちょっと大きくなると一緒に遊ぶのがすごく楽しくなったっけ。
ああ、どうしようもない失敗をした後、雪は身を絞るような反省と後悔で壊れそうになってるんだな。
雨がだんだん自分から離れて別の世界に行ってしまいそうなのが花は怖いんだな。
等々・・・。
この作品はジブリの作品のように華々しい出来事がどんどん起こるわけではない。
結構淡々と母親の花と二人の子供たちの12年間を描いているだけ。
でも、一人ひとりがたまらなくいとおしい。
見ているわたしたちがアニメの登場人物の心の内を自分のことのように感じ、
共に悩み、共に笑い、共に考えることが出来る。
心の機微を丹念に描き出すことに成功しているというか。
 
そして、映像も素晴らしかった。
風にそよぐ草や風にかすかに揺れる草花、雨や小川の水の描写等々、
本当に繊細な表現に目を見張った。
雨や雪がおおかみの姿で疾走する場面のすさまじいスピード感も、
湖面を風が渡る様子も、清澄な空気が感じられるような描写の精緻さに本当に感心した。
それから、画面のすみずみにまで気を配っているんだなあ、と感じさせられたのは、
花たちの住まいの内部描写。
本棚に本が沢山並んでいるんだけど、その本の選択が実にいい。
広辞苑がどんと存在感を放っている学生時代の本棚、
「赤ちゃんがいる暮らし」(毛利子来先生の名著だ!)も並んでいた雪が生まれた後の本棚。
子供たちが大きくなるにつれて野菜の栽培の仕方の本や、
ぐりとぐら」などの絵本に、キノコの見分け方の本など、
一瞬映る本の種類からも花たちの暮らしの変遷が分かるようになっていた。
実に芸が細かい!!!と感心させられた。
 
細田監督の前2作に比べると、今回は声優陣も良かった。
特に幼少期の雪と雨の吹き替えの子供たち!
あんなに自然に楽しそうに笑えるなんて。
日本の子役も本当に上手くなったものだと思った。
宮崎あおい大沢たかおの上手さは言うに及ばず。
少し大きくなった雪の声がちょっと大人過ぎたかな?というのが唯一の不満。
前2作のように主役が「ニャンちゅう」みたいな口調で話したりしなかったのが良かった。
 
うちの子供たちには不評だったエンディングで流れるアン・サリーの主題歌。
わたしはすごくいいと思った。
特に歌詞がいい。
帰るときに恥ずかしいからエンドロールの間に涙を拭いて・・・と思っていたのに、
主題歌の歌詞でグッと来てしまい、またしても涙がドドっと・・・。
そう、そうなんだよね、母の願いはキミたちがのびのび育ってくれること、
そしていつか自分の道を見つけて自分の足でしっかり歩いて行ってくれること。
大変なことも心配なことも苦しかったことも悩んだことも沢山あったけど、
キミたちさえ幸せになってくれればそれでいい、と思えるんだよ。
それが母親ってものの本心なんだよ・・・。
 
「あんなお母さん、いるわけないよ。
だってさ、今日の映画の中で1度も怒鳴ったりしなかったじゃない?
あんなお母さん、世の中に存在するわけないもん。」
超現実主義者の娘の感想。
おセンチな息子は映画の間中、隣りの席でそっと涙をぬぐっていた。
うちの子供たちも雨と雪みたい。
同じように育てたのに、二人とも全然性格が似ていない。
息子は「世の中の役に立ちたい」と生活に役立つロボットを作る道へ進みたいと言ってるけど、
娘は「美大へ行ってイラストレーターになるか、伝統工芸の技を受け継ぐ人になりたい」と言ってるし。
そんな二人の個性を生かせるようにちゃんと育ててるだろうか、
子供たちにわたしは花みたいに真摯に向き合ってるだろうか。
雪が生まれたときに「頭のいい子になるかも」「好きな職業に就けるといいな」などと、
花とおおかみおとこが嬉しそうに話していたけど、
わたしは日々の暮らしに忙殺されてそういう気持ちを忘れてやしなかったか。
見終わったあと、背筋をしゃんと伸ばして母親業に向き合わなければ、という気持ちにさせられた。
 
・・・なんだかゴチャゴチャな文章になってしまった。
とにかく、この作品はすごくいい。
絶対に映画館で観るべきだと思う。
ただ、アニメだけど小学校高学年以上でないと話についていけないし飽きると思うので、
小さい子供を連れて見に行くのはおすすめできない。
 
最後にいつものようにこの作品を野球に例えると・・・
プロ入り5年目の急成長株の選手が、
ヒットを期待される場面で本塁打
世代交代を予期させる素晴らしい当たり!