まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「俺を人殺しにしたくないなら黙っててくれ」と夫は言うのだ

2ヶ月に一度の義父の通院日が迫っているのだが・・・。
「付き添いをさせろ」と義母が夫に電話して来たそうだ。
「不穏がひどくなって困るから、ヨメと職員さんに任せて欲しい」と答えたら、
「じゃあ、病院で待ってて隠れて様子を見るだけにするから」と言ったのだそうで。
なんでも、お盆に工務店関係の来客がたくさんあり(だからうちの息子を呼んで手伝わせたのだが)、
その人たちに義父の病状を尋ねられたから、らしい。

困ったことになりそうな嫌な予感。
揉め事のニオイがする。

一昨日おやつを差し入れしがてら義父の様子を見て来たのだけれど、
表情が一層薄ぼんやりとした感じになっていた。
食堂の椅子に座ってガックリと頭を垂れていた義父に職員さんが
「コウセイさん、お客さんですよ」と声を掛けると、
義父はわずかの間顔を上げてわたしの顔をチラッと見た。
その時義父の顔に浮かんだ猜疑心に満ちた表情に、
わたしの心はズキン!と痛んだ。
施設に入ってからちょっとずつ増え続けていたはずの義父の体重は、
ここ1ヶ月ほどの間で相当減ってしまったようで、
2週間に1度は様子を見に行っているわたしでさえ、
「ずいぶん痩せたな」と見た途端思ったほどだった。
職員さん曰く、義父は「いじめられている」と思い込んでいるらしく、
「お前たちがいじめるからご飯を食べない」などと言って食事を拒否したりしているそうで。
病的だと思われるほど眠りが深いためか、
施設で決まっている朝ごはんの時間には決して起きられず、
一人10時半とか11時頃になってから部屋で朝ごはんを食べたり、
ひどい日には昼まで寝てしまい朝ごはんは食べず起床後すぐ昼ご飯、
というような状態でもあるそうで。
「今回の通院には介護職員ではなく、看護師に付き添いしてもらい、
精神科の主治医の話を聞いてもらおうと思ってました」
とケアマネさんがおっっしゃっていたところだったのだ。

こんな時に義母が義父の様子を見たら・・・。
「わたしが付いてればこんなことにならなかった」と言い出すに決まっている。
「わたしは入院させる必要はないと思ってたけど、
栗ちゃんがあそこで医者にメモなんか渡したからじいちゃんは医療保護入院になったんだ。
首絞めると言ったってじいちゃんはちゃんと加減しててわたしが死ぬ訳がなかったんだし。
入院なんかさせずに家に居させれば良かったんだ」
くらいのことは平気で言うだろう。
「じいちゃんに殺される!早く来てくれ!」
と言って夫を毎日のように実家へ呼びつけていたことも、
「『金を盗ったのはお前だろう?俺の金、どこへやった!返せ、この泥棒!』って
じいちゃんに連日責められる・・・もう限界だ・・・」
と途方に暮れていたのも多分全部忘却の彼方なんだろう。

義母は、とにかく自分だけが全てを理解していて常に正しい、という考えの持ち主で、
それが元で夫と昔から微妙な関係にあるのだ。
義父のこと、義母とのことなどで夫とどうしても相談しなければならないことが多々あるのだが、
相談を始めてちょっと経つと夫の様子がおかしくなってくる。
どす黒い「怒りのオーラ」みたいなものがユラユラと立ち上ってくるようになるのだ。
そしてすぐ顔は憤怒の表情になり、ブチ切れる寸前みたいな雰囲気になる。
そうなると、夫は
「もう止め!もうおしまいにして!俺、もう駄目だ、耐えられない。
あのババアを今すぐぶっ殺してやりたい衝動を抑えられなくなりそうだ。
俺を人殺しにしたくないなら、頼むから黙っててくれ!」
と言って話を途中で止め、席を立って行ってしまう。
ちゃんと相談しておかなくてはならないことがいろいろとあるのに、
夫は拒絶反応が起こってしまうらしく、話を最後まで聞くことすら出来ない状態だ。

「ババアも、オヤジも大っ嫌い。
あいつら、人として見たらサイテーな奴らだ。
あんな奴らが親だなんて、ホントにサイテーだ!」
義父も義母も、大事な息子が頭をかきむしりながら、
こう言って苦悶しているのを知ったらどう思うのだろうか。