まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「聲(こえ)の形」を読んでいます

今年度「このマンガがすごい!少年マンガ部門第1位になったというこの作品。
「いじめ」問題について考え続けることをライフワークの一つと考えている私としては、
是非読んでおかなければ!ということで、既刊分6冊を大人買い
 
・・・うーん。
何なのだろう、このマンガの第1巻から第5巻まで、
通奏低音みたいにずーっと鳴り響き続けているノイズは。
まるで、わたしが大っ嫌いなチェーンソーやグラインダーの音をずーっと聞かされてでもいるみたいに、
読んでいると生理的に受け付けられない感じがして苦しくなる。
または、神経線維を守っている被膜を剥がされてしまい、
刺激に弱い神経を剥き出しにされた上で金属ブラシでこすられているような感じ。
読むだけで心が相当消耗する感じがする。
 
このマンガのテーマは、一見すると「障碍者に対するいじめ」だけれど、
本当のテーマはきっとそうじゃない。
「コミュニケーションの欠落」と「大人の存在の欠落した子ども社会」がテーマなんじゃないだろうか。
 
その二つの観点から読んでみると、
このマンガで描かれている世界はもう絶望的なくらいだ。
まず「コミュニケーションの欠落」ということに関して考えてみると・・・。
このマンガに出て来る子供たちは大部分が「私は〇〇だったんだよ!そうなったのは××のせい!
私がどんなに苦しかったか誰にも分からない!」という怨嗟にも似た気持ちを抱いている。
でも、そういう気持ちについて誰かに相談することは決してない。
自分ひとりの中で抱え込み、一人称の分析を続け、歪んだ結論に帰結させてしまうだけ。
この作品に出て来る人物たちの中で、唯一他者ときちんとしたコミュニケーションを図ろうと必死なのは、
皮肉なことに耳が聞こえない硝子(しょうこ)のみである。
その他の、健常者であるはずの子供たちは、誰もが他者に心を閉ざし、
お定まりのLINEや表面的な会話で疑似的なつながりを築いているだけなのだ。
そういう関係だからこそ、いじめの加害者と被害者とは、
いとも簡単に入れ替わってしまう。
昨日までの加害者が一転被害者となり得るのだ。
そうやって、硝子に対する「いじめ加害者」から「いじめ被害者」となった石田将也。
昨日まで一緒に笑いながら硝子をいじめていたクラスメイトたちは、
手のひらを返したように将也をいじめるようになる。
しかし、将也は硝子を恨むのではなく、自分の犯した罪を見つめ、自らを断罪し、
贖罪への道を自ら決めて進んで行く。
そういう将也の姿と、それを受け入れようとする硝子の姿とに、
周囲の子供たちは大いに動揺し、否応もなく自己を見つめ直さざるを得なくなっていく。
そういう登場人物たちが上げつづける「声なき悲鳴」みたいなものが、
多分読み手に生理的に苦しくなるような心理的圧迫感を与え続けるのだと思う。
 
では、「大人の存在の欠落した子ども社会」はどうか。
こちらも絶望的な気分になるほどである。
この作品に出て来る大人は全員どうしようもないヤツばかりだ。
硝子に対するいじめを助長するような態度を取った担任の小学校教師も、
将也の母親も、硝子の母親も。
誰もが大人としての義務も責任も全く果たしていない。
なぜなら、子供たちと本気で関わっていないから。
関わろうともしていないから。
彼らと子供たちとの間にも絶望的なまでの「コミュニケーション不足」が見られる。
誰ひとりとして子供たちの話を聞こうとせず、
自らの胸のうちを子供たちに話そうとすることもない。
硝子へのいじめも、将也の贖罪への過程で起こってくる様々な問題も、
実は大人の誰かと子供の誰かとがコミュニケーションを取ってさえいれば防げたものばかりだ。
担任の教師は体面にこだわる一方で心の中では差別主義者だ(こういう描かれ方をするのを見ると、
元小学校講師としては非常に悲しいのだが)。
一見物わかりがいい将也の母親の態度は、実は「放任」である。
硝子をいじめる相手に対して無表情なまま暴力を振るう硝子の母親は、
硝子の存在を全く認めておらず、その心の中を知ろうともしない。
そんな母親(と不在である父親)の代わりを務めようと必死なのが、
硝子の妹である結弦(ゆづる)である。
結弦の仕事は姉を見守り、その命を守ること。
そのために結弦は自らを「オレ」と呼び、髪を短く切った男の子のような姿になり、
「死にたい」と洩らした姉に命の大切さを知らせようと動物の死体の写真を撮り続けるのだ。
そんな結弦の姿を見ても、母親はその真意を尋ねることすらしない。
ただ表情のない目を向けるだけ。
彼女は生きながらすでに死んでいる。
(わたしは、このマンガに出て来る人物たちの中で硝子の母親が一番怖かった。)
 
既刊分の中で最新刊に当たる第6巻で、物語に一筋の光明が見えてくる。
今までばらばらに見えていたパズルのピースがパチンパチンとはまり始めた。
最終巻である第7巻は12月17日発売だそうだ。
全て読み終えたら、改めてもう一度記事にしようと思う。