まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

これって良くないと思うよ、ねえさん・・・。

郷里の仙台にあるお寺でかあさんの三回忌があった。
 
読経、お焼香が済み、「これで終わりとなります」と和尚さんが言った。
それから和尚さんはわたしたちに向かって、
「ご実家のご仏壇に仏像がありますよね」と話し始めた。
「ご実家に伺ってあのお仏さまを見るたびに感じていたことなのですが・・・」
 
和尚さんの話を要約するとこんなことになる。
あの仏像の造作は少なくとも江戸時代の初期、
もしかするとそれ以前に作られたものの特徴を備えている。
その辺にあるようなありきたりの品ではないなあと、
見るたびにとても感心していた。
あれはとてもいいお仏さまだから、
代替わりしても是非大切にしてもらいたい・・・。
 
すると、義兄が口を開いた。
「実は、ですね・・・。
義父(とうさんのこと)の1周忌が過ぎてすぐ、実家を解体しまして。
仏壇も仏像もその時に一緒に処分してしまいました」
和尚さんはあまりのことに口をぽかんと開けて絶句していたが、
「仏壇だけでなく、お仏さままで処分なさったんですか?」
とガッカリしたような口調で言った。
 
姉の婚家にも立派なのがあるから仏壇は処分するだろうと思ってたけれど、
置いてあるものは全て婚家に持って行くものだとばかり思ってたから、
仏像も全部処分したなんて話はわたしにとっても初耳だった。
でも、これを聞いた途端、「これって良くない!」と感じた。
わたしは結構勘のいい性質で、
特に聞いた途端に「これって良くない!」と感じた時には、
十中八九良くない結果になるのだ。
実家が一体どういう家だったのか良く分からないのだけれど、
実家は実は昔、相当の土地持ちだったと聞いたことがあり、
実際誰だか分からないけれど江戸時代初期の年号が入った先祖らしき人物の墓がある。
仏像だって、もしかするとご先祖さまが羽振りが良かった頃に、
名のある仏師に彫ってもらった品だったかもしれないのだ。
第一、仏像が価値があるかどうかという問題以前に、
ずーっと続いてきた実家を見守り続けてくださったお仏さまを
あっさり処分してしまったなんて、バチ当たりにも程があるってものだろう。
亡くなったとうさんが「継いでもらいたい」と望んでいた実家を、
結局誰も継がず、長女である姉が遺産を総取りしたのだから、
せめて先祖代々を守ってくださった小さな仏像くらい、
どうして婚家へ持って行かなかったのか・・・と悲しい気持ちになる。
 
もし、姉とわたしの立場が反対で、
わたしが遺産を総取りして仏像を黙って処分しちゃってたとしたら、
法事が終わった途端、わたしは姉にどれほどの言葉で非難されたことかと思う。
でも、姉には誰一人として逆らえないから。
わたしは姉に何も言えなかった。
ただ、仙台から戻る車の中で夫や子供たちに
「あれ聞いた途端、『これって良くない!』って感じたよ」とだけ言った。
夫は車を運転しながら
「あんなことして、天をも恐れぬ所業って言うか・・・。
これから先、どんな災難が降りかかるか分からないかもなあ。
息子が大学中退したとか、お姉さん自身が治らないタイプの糖尿病になったとか、
そんなのまだまだほんの序の口かも知れないよ。
くわばら、くわばら・・・」とちょっぴり意地悪な口調で言い、意味ありげにニヤッと笑ったのだった。
 
お寺の和尚さんはわたしたちの間で「インスタント和尚」と呼ばれており、
葬式の法話を使い回ししたり(半年しか間がなかった母と父の葬儀の法話が、
全く同じ話だったのだ!)、
お経をトチったり戒名を噛んだりいろいろやらかしちゃってる人物ではあるけれど、
結構勉強熱心なところがあるから、仏像の話は本当のことじゃないかと思う。
わたしが実家を処分したのなら、ダメもとで処理業者に連絡して、
仏壇や仏像をどうやって処分したのか、
もし古物商に売ったのならどこへ売ったのかを問い合わせして、
出来ることなら買い戻すと思うんだけど・・・。
姉夫婦のことだから、
「ホントにあのインスタント和尚ってバカだよね。
そんなことなら、前もって教えとけって感じだよね。
何にも言わないから、仏像処分しちゃったりしたんじゃない。
自分の責任だってこと分かってるのかな?」
なんて言って和尚さんをバカにする話でひとしきり盛り上がっておしまいなんじゃないかと思う。
 
「・・・なんだ、お仏さんまで捨てちゃったのか?
家も継いでくれなかったし、あんまりだなあ」
そんな風に言うとうさんの悲しげな声が聞こえるようで辛い。