まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「ヴェスパー」という名がゆえに~007カジノロワイヤルを見た~

ヴェスパ―。
主に詩などで使われる言葉で、「宵の明星」を表す言葉だそうだ。
 
その名を親から与えられた彼女は夢のように美しかった。
美しかっただけではない、驚くほど賢く、知的な女性。
信じられないくらい大きな目は深い湖のような色をたたえ、
どこかに翳を宿したような表情と華奢な身体とが儚げな風情を与えている。
それまで本気で女性を(誰かを?)愛したことがなかったボンドが、
初めて心の底から愛した女性。
そして、ボンドを裏切り、密かにボンドの命を助け、最後に自ら命を絶ったひと。
 
彼女の運命は、「ヴェスパ―」と名付けられたときから決まっていたのだろう。
金星は全天で最も明るく輝く星。
しかし、内惑星(地球より太陽の近くを回る惑星)がゆえに、
その動きは他の星々と違ってときにうろうろとさまようようであり、
日没後(宵の明星)ほんのわずかの間しか、その姿を地平線上にとどめておけない星なのだ。
 
” The Bitch Is Dead. ”(クソ女は死んだ)
そうMに電話で報告しながら、ボンドの心は血の涙を流し続けていたに違いない。
彼女はまばゆい輝きを放ちながら、
あっという間に地平線に沈んで行ってしまったのだ、
一人の男の心に忘れ得ぬ残照をのこして。