まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

夢をかなえるアザラシ

昨日、本当に久しぶりに高校生の娘とお出かけした。
高校に入ってからと言うもの、娘は宿題と部活動とで、
文字通り寝る暇もなくなってしまっており、
一緒にのんびりお出かけするなんてことは望めなくなってしまっていたのだ。
定期テストが終わった今週末、いつもより宿題がグッと少ないからどこかへ行きたい、
という娘と、新しく出来たショッピングモールへ出かけた。
 
この春出来たそのモールへは、8月に10日間ほど帰省した息子と一緒に行ったことがあった
(大学の夏休み開始が遅くなっている関係で、息子が帰って来て間もなく
高校の2学期が始まってしまっていたため、息子と二人で行ったのだ)。
専門店街とスーパーとシネコンがくっ付いている巨大なショッピングモール。
娘は修学旅行で訪れたハワイ(・・・なんと、中学の修学旅行がハワイだったのですよ!)にあったという、
アラモワナショッピングセンターに「ちょっと感じが似てる」と落ち着き払って言い、
「でも、アラモワナショッピングセンターよりこっちの方がずっときれいだけどね!」と笑った。
とりあえずひと回り全部見てみることにする。
動物が大好きな娘は、すぐペットコーナーに引っかかった。
ぬいぐるみみたいなトイプードルの子どもを店員さんがお客さんに見せている。
子犬が入れられたケージ前には人だかりが出来ていて、
みんなニコニコしながら愛くるしい子犬を見つめていた。
「あたしさ、もし将来犬を飼ってもいいっていうアパートに住めたらさ、
柴犬飼いたいな。
だって、柴犬って賢いし、主人にとても忠実なんだって!」
トイプードルやミニチュアダックスと違って人気がないのか、
人だかりがしてない柴犬のケージの前で娘が言った。
「お母さんはもし飼えるんならネコがいいや。
雑種の真っ黒いネコを飼いたい。
だって、お母さんは甘々だから、犬だったら絶対舐められちゃって 『権勢症候群』になられるもん。
そうなったら『もう走れません、参りました』ってなるまで犬を自転車で連れ回さなくちゃならないんだって!」
娘はそれを聞くと「アハハハハ!」と可笑しそうに笑った。
 
「見た目は男子、心は乙女」(ヘンな意味じゃなくて)な息子は、
ショッピングモールに入っている沢山の雑貨屋さんに全部引っかかっていたのに、
娘は「お兄ちゃんと違ってあたしは一人暮らししてる訳じゃないからなあ」とほぼスルー。
母としては洋服屋さんへ行って娘の現在の好みを探りたかったんだけど、
ジーンズもTシャツもパーカーも全部間に合ってるから」とこれまたほぼスルー。
「こんなに大きいショッピングモールなのに、娘が喜ぶ店がなかったなあ、
どこか別のとこへ行けば良かった」と内心焦ってたとき、「あっ、アイツ、見て見て!」と娘が言った。
娘が指さした先にはアザラシのぬいぐるみ。
「中学の国語のN先生にそっくり!アザラシだよ、見て見て、こいつ可愛いなあ!」
そこは小さな女の子向けの商品だけを置いているらしい店で、
店全体がピンクとクリーム色、アザラシや黄色いヒヨコなどのキャラクター商品でいっぱいだった。
娘は「うわあ、可愛い!」を連発しながらニコニコと店内を見て回ったが、
やがて真っ白いアザラシの小さなぬいぐるみが付いたキーホルダーに目を留めた。
そこにはイチゴのカップケーキやプリン、かしわ餅などのかぶりものをしているアザラシが、
ざっと見たところ20種類ばかりあった。
「好きなの、どれか買ってあげる。前におじいちゃんからもらった軍資金があるんだ!」
と言うと娘は「ホントに?どれにしようか迷っちゃうなー」と言いながら長い時間かけて選び、
最後に虹のアーチからアザラシが飛び出して来ているデザインのものを選んだ。
「それで本当にいいの?イチゴのカップケーキとか、もっと可愛いのがあるけど?」
「ううん、これがいいの。虹の向こうには幸せの国があるって言うでしょ。
そこから飛び出して来てるってとこが気に入ったんだから」
そして、ちょっとためらったあと、同じものをもう一つ手に取ってこう言った。
「お母さんも同じの買おう。おそろいで。」
 
それを聞いたとき、わたしは危うく泣きそうになった。
わたしはかあさんやねえさんとおそろいにしようと思ったことなんかなかったから。
仮に何かを「おそろいにしたい」と言ったってあの二人がどんな表情をして嫌がり即座に拒否するか、
それが身に沁みてよく分かっていたから、そんな身の程知らずな提案をしたこともなかったのだ。
・・・わたしは、娘に好かれているんだなあ。
おそろいのものを持ちたいと思ってもらえるくらいに。
そう提案しても拒否されたりしない、きっと喜んでくれるはずだ、
そう思ってもらえるくらい信頼もされているんだなあ。
そんな気持ちがじわじわとこみ上げてきて、
「おじいちゃんからもらった軍資金を入れた封筒、バッグのどこに入れたかなあ?」
とゴソゴソ探すふりをしながら、わたしはぽろんと涙をこぼしてうれし泣きしちゃったのだった。
 
そして今朝。
いつも通り寝坊してバタバタとアトリエへ出かけた娘。
「夢がかなうように付けたの。・・・じゃ、行ってくるね!」
肩から掛けた大きなバッグには、虹から飛び出すアザラシが揺れていた。