まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

ケヴィン・クラインでなきゃ、ダメなんだ~「海辺の家」をみた~

(ネタバレあり。未見の方はご注意ください)
 
 
以前みたことがあったこの映画をもう一度みた。
 
百点満点の映画ではないけれど、この作品が大好き。
正確に言うと、作品中でケヴィン・クラインが演じているジョージが大好き。
さらに言うと、ジョージを演じているケヴィン・クラインが大好き。
 
主人公のジョージは冴えない中年男性。
CGが使えず20年勤めた設計事務所はクビになるし、
海辺に建つ家はボロボロで周囲からは浮いてるし(ジョージの存在も含めて)、
10年前に離婚してからは孤独で心もささくれちゃってた風だし。
そんなジョージが末期ガンで治療法もないことを宣告される。
痛み止めのモルヒネを飲みながらジョージが最後の日々の過ごし方として選んだのは、
元妻のロビンとの間にもうけた息子サムとひと夏を過ごし、
ボロボロの家を建て直すことだった・・・とまあ、あらすじをまとめればこんな風になる。
 
お話自体には目新しさはない。
それに、「嘘っぽいなあ」と思うことも多々ある。
サムは一見ものすごい不良高校生だけど、
中身は純粋でものすごくきれいな心の持ち主だったり(ジョージの息子だからか?!)、
そのサムがドラッグを買う金欲しさに手を出した男性相手の売春(未遂だったけど)の相手が、
ジョージのご近所さん連中の中でもジョージに一番悪意を抱いてるヤツだったり、
ストーリーの各所に「これ、ここで必要か?」と思うようなセクシャルなエピソードが挿入されてたり。
 
・・・でも、その全てを覆いつくしてなお余りあるほどの魅力を放っているのが、
ケヴィン・クライン演じるジョージなのだ。
10年前に離婚してからずっと孤独だったジョージだけど、
それはロビンのことを変わらずずっと愛していたから。
サムの様子を見に通って来るようになったロビンが、
再婚相手との満たされない生活の救いを自分に見出すようになったことに気付いたジョージは、
「もうここへは来ないでくれ」とロビンに頼む。
ジョージの真意が分からず腹を立てて車で走り去ったロビンが
戻って来てジョージに「一体どういうことなの?」と尋ねる場面が本当にいい。
(ジョージが会社で倒れ、担ぎ込まれた病院で末期ガンを宣告され、
1週間後退院した時に迎えを頼んだロビンに車内で言ったことを思い出して不審に思ったロビンが)
 
Robin(以下R):When I picked you up from the train, what you said, what was that?
George(以下G):What did I say?
R; Oh, you know.
G; What?
R; The thing about me being the most beautiful person.
   What was that?
G; That was truth.
R; You've never said that before.
G; I say a lot of things I've never said before.
R; Sounded like a pick-up line.
G; I can't pick you up.
R; Well,because I'm married.
G; You bit my finger.(車内でロビンに触れようとした時、彼女に指に食いつかれそうになったことを指す)
R; If I weren't married?
G; Should we do this?
R; I need to know.
G; What?Do I still love you?
   Absolutely.
   There's a not a doubt in my mind through my anger, my ego.
   I was always faithful in my love for you.
   That I made you doubt it, that is the great mistake of a life full of mistakes.
  But the truth doesn't set us free, Robin.
   I can tell you I love you as many times as you can stand to hear it,
   and all it does, the only thing is remind us love is not enough.
   Not even close.
R; I've got to go...
 
・・・と、英語字幕だけ書き出して見ると結構陳腐に思える場面だけど、
ジョージのロビンに対する深い愛情や、ジョージという人間の持つ優しさや温かさが、
仕草や表情だけでなく、彼の存在の全てから伝わって来るように感じられて、
何度見てもものすごく感動してしまう。
アメリカ映画につきものの激しいキスもなく(ロビンが再婚してるからジョージはキスしたりしないのだ!)、
ただ優しい眼差しと温かい口調、そして抱擁だけで深い深い愛を表現してしまうケヴィン・クライン
本当にすごい俳優さんだと思うなあ。
(ついでに言うと、ロビンの子供たちをハグする場面も何度か出て来るけれど、
ケヴィン・クラインは日常的に小さな子供をハグしてる人なのだという気がした。
時々映画を見ていると、子供と接したことがない人なのかな?と感じる
俳優さんもいるけどね。)
 
ジョージはただ優しくて温かいだけの人ではなく・・・。
実の父からの虐待という過去を背負っている人なのだ。
(建て直そうとしているボロ家は、その虐待の舞台になった場所)。
大好きだった母もまた父からの暴力を受け、
最後には二人とも父親の起こした交通事故で亡くなり、
さらにはその事故に巻き込まれて知らない女性が亡くなり、その幼い娘も重い障害を負い・・・。
ジョージが背負っているものは余りにも重く悲しい過去。
しかし、ジョージは自分の息子サムには決して暴力を振るわない。
ドラッグに溺れ、居場所を見いだせず不幸そうにしているサムに、
等身大の自分を見せ、深い愛を注ぎ、立ち直らせて行く。
「虐待は連鎖する」と言う。
自分が親にされたことを、自分が親になったら子供にもしてしまうのが普通なのだ。
ジョージのように、自分が虐待を受けても子どもにはそれをしないというのは、
実はものすごい意志の力と深い思索をもって、
辛い自分の過去と対峙しなければ出来ないことなのである。
 
・・・いいなあ、ジョージ。
わたしの理想のひとかもしれないなあ・・・はあー。
などと思いつつ。
全然映画の紹介になってないな(笑)
 
とにかく、見終わったあと心地よい海風が心に吹くような作品。
一見の価値はあると思う。
ケヴィン・クラインのファンになってしまったとしたら、
「デーブ」と「De-Lovely(邦題は「五線譜のラブレター」)」も絶対におすすめ。