「抱っこしてあげる!」
久しぶりにボランティアへ行ってきた。
1ヵ月ぶりの活動だったので、歌の活動場所である小さなホールは満員御礼状態。
ぎっしりと並んだ椅子と車いすとで、
利用者さんたちと握手しようにも間に入ることが出来ないくらいだった。
今回は久しぶりでわたしたちもちょっと不安だったため、
定番曲を沢山歌う活動にした。
季節柄「七夕さま」「てるてる坊主」を歌い、
あとは「二人は若い」「ふるさと」「星影のワルツ」「青い山脈」と、
人気曲のオンパレード。
手拍子と笑顔と元気な歌声とで、施設の職員さんたちもわたしたちも、
そして利用者さんたちもとても楽しい気分になった。
その後は各自傾聴活動。
わたしは、比較的認知症が進んだ利用者さんたちが暮らしているユニットへ行った。
そこには、わたしが毎回顔を見るのを楽しみにしているKさんというおばあちゃんがいるのだ。
Kさんを、わたしはひそかに「ファンキーKさん」と呼んでいる。
混じりけのない総白髪の小柄なおばあちゃんであるKさんだが、
得意技はなんと「投げキッス」と「ウインク」だ。
歌の活動の最中、伴奏しながら利用者さんたちの反応をみているわたしと目が合うたび、、
Kさんはウインクしながら投げキッスしてくれる。
信じられないくらい可愛らしい笑顔で。
その投げキッスをもらうと、何だかとてつもなく幸せな気分になってしまうのである。
(もちろん、Kさんは他のメンバーにも同じようにしてくれるので、
メンバー内で大の人気者になっている)。
そんな訳で「Kさんとお話しよう」と行った先で、
いつもKさんの近くにいるYさんと話し込んでしまった。
そして、結局Kさんと話さないまま、傾聴終了の時刻となった。
「あっ、今日はKさんとお話しないうちに帰る時間になっちゃった」
と帰ろうとしたわたしに、Kさんが手招きした。
何だろうと近づいたわたしにKさん、
「抱っこしてあげる!」
そして、さあおいで!とでもいうようにぽんぽん!と腿をたたいた。
「ダメだよ、Kさん、わたしを抱っこしたら膝が砕けちゃう。
だって、わたし、こう見えて体重が3万トンあるんだよ!」と笑って断ると、
Kさんはハグしよう、と言うような素振りをした。
だから、わたしはKさんとハグした・・・と言いたいところだけれど、
わたしは誰とするのでもハグというヤツが非常に苦手で、
表情も身体も全て凍り付いたようになってしまうため、
Kさんの両手を取るだけにした。
Kさんはわたしの両手をぎゅうっと握って「また来てね」と言ってくれた。
そして、ユニットを出ようとするわたしに、ウインクしながら投げキッスをおくってくれたのだった。
帰宅してから夫に、
「わたし、今日、何十年ぶりかで『抱っこしてあげる!』って言われたのよ」と、
その日の出来事を話して聞かせた。
夫は「自分の孫くらいの年だと思われたんじゃないの?」と言ったけれど、
わたしはそうじゃないんじゃないかな?と思う。
Kさんはどうして認知症が進んだ人たちのユニットに住んでるのかが全然分からないくらい、
頭もはっきりしている人なんだから、白髪のわたしを孫くらいの年だと思うはずがない。
それなのに、なぜKさんはわたしに「抱っこしてあげる!」と言ったんだろう?
このところ、ちょっとうつっぽくて、どこか暗い顔をしてたのを
Kさんにしっかりと見抜かれたのかもしれないな。