まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

「コトセン」と「イッパヒトカラゲ」

わたしの上司は権威に弱い。
彼女は人をどこの大学を出ているかでランク付けする。
NPO関係の勉強会などに出掛けて熱心に勉強するのはいいけれど、
そこで習い覚えて来た言葉(例えば「アドボカシー」とか
ダイバーシティ」とか「コンセンサス」とか「アセスメント」とか)を
機会あるごとに誰に対しても連発する。
そして、相手が理解できなかったりすると、
「あんなの常識、知っておくべきよ!
あの人勉強してないのね、大したことないわ」と見下す。
見下す、と言うとわたしと二人だけの事務所なのをいいことに、
一日中仕事上で関わりのあるあらゆる人々、あらゆる団体、
あらゆる自治体の悪口三昧。
ブルドーザーのように働く彼女のパワーの源は「悪口」なのでは?と思うほどだ。
そして、年度末の忙しい時期の最近は時折わたしも口撃の対象にされる。
血液型や星座を根拠に、わたしが如何に感情的な人間で
理性から遠い人間であるかについて熱弁を振るわれたこともある。
さらには、うちの娘が美大進学希望だったことを知りながら、
「うちの子がね、うちの高校から美大なんかに進学するような
馬鹿がいるなんて!って驚いてたのよ」などと平気で言って来たこともあった
(うちの娘と上司の娘は同じ高校の先輩と後輩の関係)。
彼女がわたしの知り合いのママ友、という関係で紹介された仕事なので、
知り合いの顔を立てるためもあって文句も言わず必死で頑張ってはいるものの、
彼女は正直言ってわたしが一番唾棄すべきだと思っている
価値観の持ち主なのである。

そんな彼女と働くようになってちょっと経った頃、
聞きなれない言葉がしばしば彼女の口から発せられるのに気付いた。
「心のコトセンがどこにあるか…」
「コトセンに触ったって言うのかしら…」
コトセン、コトセン、コミセンなら知ってるけど…あっ!!!
そう、彼女は「琴線」のことを「コトセン」と言っていた(いる)のだ。
その他にも「イッパヒトカラゲ(=十把一絡げ)」、
「モウジャ(=猛者)」「シキャク(=刺客)」「ロンカク(=論客)」
「マンカン(=万感)」「マンニンムケ(=万人向け)」などなど、
国文科卒、と言ってたはずなのに…な言い間違いの数々。
しかも、悪いことに本人のお気に入りの言葉が
「コトセン」と「イッパヒトカラゲ」なものだから、
どこへ行ってもこの言い間違いを隣りで聞くことになる。
そして、「ああ、わたしまでこんなことすら知らない人間だと
思われているんだろうなあ」と思う破目になる。

指摘すべきだろうか?と何度も迷ったけれど、
今は知らんぷりを通すことに決めている。
彼女の夫君は学校の先生なのだ。
それでも指摘せずに放置しているのは、
彼女が恐ろしいほどのプライドと学歴コンプレックスの塊だからだろう。
「それ、間違ってるよ、そんなこと言ったら恥ずかしいんだよ」
なんて言ったら夫君だってどんな目に遭わされるか分からない。
況や、木っ端の如きパートタイマーの栗ようかんをや。
くわばら、くわばら、触らぬ神にたたりなし。

そんな訳で、ほぼ毎日のように、彼女が出先で、、
電話で、来客対応の事務所で、「コトセン」「イッパヒトカラゲ」を
連発する様子を見ながら
複雑な思いを抱いているわたしなのであります。