まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

桜の花を憎むひと

仕事で知り合った老婦人がいらっしゃいます。
物腰の穏やかな、ふんわりとした柔らかな空気をまとった方。
仕事が出来る非常に聡明な方ですが、誰に対してもとても優しいのです。
そして、お声がまるで少女のよう、電話で聞いたら若い女性としか思えないほどで。
わたしは密かに「ブロッサム・ディアリーみたい!」と思いながら、
お姿を拝見しておりました。

その方が何よりも桜の花が大嫌いなのだと言うのです。
大嫌い、などと言うレベルではなく、
憎らしくて憎らしくて我慢がならないほどなのだと。

それは、その方の息子さんが、
桜の季節にバイク事故で亡くなられたから。
詳細はもちろん存じませんが、
ひどい事故で息子さんは即死、
母親であるその方は遺体を見せてもらえず、
焼いてお骨になった息子さんにしか会わせてもらえなかったそうで。

「だから・・・桜の花がわたしは憎いの。」
事故のあと桜の花が幾度咲き幾度散っても、
その方の悲しみが癒えることはないのだそうです。
美しさを誇るかのように咲く桜の花を見るたびに、
若くして亡くなった息子との思い出と、
息子を失った母の悲しみとがないまぜになった気持ちになり、
ふつふつと憎しみが湧き上がって来るのだと。

ほっそりとした少女のような姿のその方の心の中に、
そんなにも激しい悲しみが詰まっていたことを知って、
「だからこそ、この方は他の人にこんなにも穏やかに
接することが出来るのかも知れないなあ」と思いました。

でも・・・。
息子さんはもしかしたら、
お母さんがもう一度桜の花を楽しめるようになって欲しいと
願っているのかも知れないな、とも思いました。