まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

小さなファン

うちの娘は美大進学を目指している。
日曜にはアトリエに通ってデッサンの勉強を続ける一方で、
PCを使ったり、コピック(漫画用のカラーペン)で手描きしたりして、
いろいろなイラストを描いている。
でも、狭い社宅住まいの我が家には、家の中に娘の作品を飾ってやれるスペースがない。

と云う訳で、我が家のドアはもう何年も前から「ギャラリー」状態。
コンビニでカラープリントした娘のイラストを(我が家にはモノクロプリンタしかないため)、
ドアの外にマグネットで貼っているのだ。
高校のイラスト研究会の活動で描いたものや、
クリスマスやハロウィーンなどに合わせて描いたものなどを、
季節に応じて時折貼り換える。
宅配便や郵便の配達員さんに褒められることもあるし、
何より娘自身の励みになる部分が大きいから続けて来たのだけれど、
最近娘にとってとても大きなモチベーションになることが増えた。
それは、身近にいた「小さなファン」の存在。

買い物から帰って来たわたしは、先日2階上に越して来た女性に声を掛けられた。
「あの・・・その絵、どなたが描いてるんですか?」
「ああ、うちの高校生の娘が描いてるんですよ」
「この子が、『上手だねえ、すごいねえ』って、とても喜んでいて。
時々新しい絵になるのを楽しみにしてるんですよ」
女性と手をつないで恥ずかしそうにしている幼稚園の制服姿の女の子は、
「お姉ちゃんが描いてるんだって!
毎日見てるのよね?」と女性に水を向けられると、小さな声で「うん」と答えた。
その様子を見た途端、わたしの頭にピン!といい考えが浮かんだ。
「ねえ、良ければ、うちのお姉ちゃんに頼んで、
新しい絵を描いてもらってあげようか?
きっと喜んで描いてくれると思うんだ!」
すると、女の子は初めて顔を上げてわたしの目を見ると、
「ほんと?」と言いながらちょっとだけニコッとした。
「うん、ほんと!
今日、お姉ちゃんが帰ってきたら頼んであげる!
出来上がったらポストに入れておくから、楽しみに待っててね!」
学校から帰って来た娘に事情を話して
「事後承諾になっちゃって申し訳ないんだけど、
幼稚園に通ってる女の子が喜ぶようなイラストを描いてくれる?」
と頼んだら、娘は二つ返事で引き受けてくれた。
「5、6歳の女の子が喜ぶものってどんな感じかなあ?
時期的なものを考えてやっぱりハロウィーンのイラストがいいかなあ?」
既存の「プリ○ュア」とか「ア○カツ」とか描けば早いのだろうけれど、
頑固なところがある娘は、
可愛い魔女やお化け、黒猫やカボチャのランタンなどをハガキ大の紙に一から描き、
コピックを使ってきれいに彩色した。
そして、クリーム色の封筒に入れ、自分が幼稚園児だった頃買ったのに、
勿体なくて使わずに取ってあったシールの中からハート型のを貼り、
その子の家のポストに入れておいた。

ハロウィーン当日の夜。
誰かがチャイムを押したので出て見ると、
初めて見る白髪交じりの男性と、とんがり帽に黒マントの可愛い魔女っ子が立っていた。
「素敵な絵をありがとうございました。
娘がお礼を差し上げたいというのでお邪魔しました」
娘を呼ぶと、魔女っ子は恥ずかしそうにモジモジしながら、
可愛い袋にお菓子を詰めたものを手渡して、
「お姉ちゃん、絵をありがと」と小さな声で言った。
「どういたしまして。
気に入ってもらえたかな?」
「うん。とっても!」
そして、魔女っ子はお父さんに促されて「バイバイ」と手を振り、帰って行った。

「いやあ・・・魔女っ子、可愛かったなあ!!!」
感激した様子で娘が言った。
「ちいさきものは みなうつくし。
ホントにね、可愛いよね、小さい子って!!!」
そして、「クリスマスが近くなったらまた描いてあげようっと!」
と笑顔になった。

身近に現れた「小さなファン」のお陰で、
娘は一層やる気になったようです。