まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

分解する

老人ホームの義父の部屋には物が殆ど置かれていない。
入所時に私物整理用として持って行った衣装ケースが3つ、
重ねて置かれてはいるものの中は空っぽだ。
着替え用の衣服も、歯ブラシも、電気カミソリも、
持ち物はすべてホームで預かり管理してくださっている。

何故なら、義父は何でも「分解」してしまうようになったから。

練り歯磨きはキャップとチューブを別々の場所にしまう。
電気カミソリは内刃、外刃、ケース、保護キャップ・・・という具合に、
分解出来る限り細かいパーツに全部バラして、
それを衣服の間とか、いろいろなところにしまい込む。
昔好きだった講談のCDを聴けるように・・・と持ち込んだCDラジカセも、
もちろんバラされてしまうため、持ち帰るよう施設側からすぐ連絡が来た。
(その時は「使い方が分からないみたいなので・・・」という説明だった)
その他の持ち物も、「どうやってこんなに分解したのか?!」と職員さんが驚くくらい、
出来うる限り細かくバラしてパーツを様々な場所にしまい込んでしまい、
さらに、来る日も来る日も「荷造り」を繰り返す。
たまりかねた施設側から「私物をすべて管理させて欲しい」とお話があるまで、
面会を断られていたこともあり、
そこまでの状態になっているとは夢にも思っていなかった。

義父は今、しょっちゅう電気のスイッチパネルを分解しているそうだ。
こればかりは「預かる」ということが出来ず、
スイッチをどこかへ失くされてしまうたび、
預かり金で買って補修しているそうだが、まさしくいたちごっこの状態で、
「どうしてああいうことをするんだか・・・頭痛いです」と、
ケアマネさんが溜息混じりに連絡くださった。

何かの仕事をしているつもりなんだろうか?
手持ち無沙汰なホームでの毎日に、
何もしないでごはんだけ食べるのは申し訳ないと感じてしていることなのだろうか?
その割には職員さんがアクティビティなどにいくら誘っても、
「いや、わたしは結構です」と部屋にこもっているみたいなのに。
プライドが傷つくらしく、易しいものでもとにかく読み書きを伴うものはすべて拒否、
「誰かに物を教えたい」という気持ちは強いらしいけど、
肝心の教えられることはほぼすべて記憶から飛んでしまっている状態で。
「先生、先生」と持ち上げてもらいたい、皆の尊敬を集めたい、という願望はあっても、
そう出来なくなってしまっている自分に時々腹が立ったりしているみたいだし。

現在、ただ一人面会を許されているわたし。
一体何をどうしたら、義父が少しでも安心して暮らせるようにしてやれるのだろうか。