まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

ちょっと「銀の匙」の駒場くんみたいだったOくんのこと

スーパーで「モツ」が売られているのを見ると、
小・中学校で同窓だったOくんのことを思い出す。

色が真っ黒でアンパンマンみたいな丸顔に太った身体。
太く黒々とした眉毛はまるで「イモトアヤコ」みたいで(もちろんナチュラル眉だったが)。
そんなほのぼのとした外見に似合わず、
Oくんは非常に好戦的な少年だった。
ちょっとしたことですぐ腹を立てたし、腹を立てるとすぐ手が出た。
それだけじゃなく、発言も非常にシニカルで、毒舌家であった。
しかも、イヤなことにOくんはとても頭のいい少年だったから、
学級会などでは舌鋒鋭くクラスメイトたちを追い詰めて泣かせるのが常で。
泣いちゃったクラスメイトを尻目に、
自身はそんな状況を楽しんでいる様子がありありと伝わって来て、
「ホントに嫌なヤツ!」という気持ちでわたしはOくんを見ていた。

そんなOくんは、実家のすぐ近くにあったホルモン焼き屋の息子だった。
かあさんとOくんのお母さんとは知り合いだったけど、
お母さんはOくんのことを
「弟や妹たちの面倒を良く見てくれるし、
店の手伝いも嫌がらずにいつもしてくれててホントに助かってるの」
とかあさんに自慢していたそうだ。
学校でのOくんのことしか知らなかったわたしは、
「へえ、そうなんだー」とかあさんに言いつつ、
「親の前でだけ、良い子のフリしてるのか。
いかにも頭のいいOがやりそうなことだな」と思っていた。
(性格悪いですな~
家の前を放課後通ると、
開店の準備をしてるところだったのだろう、
Oくんが店の前の砂利道のゴミを拾ったり黙々と働いている姿を良く見かけた。

さて、わたしたちも中3になり、高校進学が現実味を帯びてきたある日のこと。
「なあ、知ってたか?Oってさあ、高校行かないんだって!」
一緒に下校していた男の子の言葉にわたしはびっくりした。
Oくんは相当成績のいい子で、
わたしたちの学区のトップ校に楽々入れるはずだったから。
驚いて理由を尋ねたわたしに、その子はびっくりするような話をした。
「Oの家ってさ、親父さんが酒飲んで賭け事ばっかりしてるんだって。
それで、ホルモン焼き屋をお母さん一人でやってるんだって!
Oって下に兄弟が3人もいるだろ?
だから、Oは電力会社がやってる学校みたいなのに中卒で入って、
卒業したら電力会社の社員になってすぐ働くんだって。
そうやってお母さんにラクさせてやりたいんだってさ!」

わたしは、言葉もなかった。
そんなことがあったのか、Oくんはホントはいいヤツだったんだ。
気持ちのやり場がなかったから、学校であんな態度取るしかなかったんだ。
頭が良くて、みんなが行きたくても行けない学校にラクに入れるはずなのに、
それを諦めた上電力会社の養成所みたいなところに行かなきゃならないなんて。

Oくんは「かわいそうだよなあ」という目で見るわたしたちに向かって、
「俺、別に可哀想でも何でもないから。自分でそうしたいと思ってするだけだし。
お前らより早く金がもらえるようになるなんて、考えただけで愉快なだけだ」
と胸を張って繰り返した。
そして、確かに、Oくんの目はその頃のわたしたちの誰よりも遠くを見ているように思えた。

高校に入ってしばらくした頃。
Oくんの家のホルモン焼き屋は休業続きになり、
やがて店自体が取り壊されてしまった。
噂では、借金の形に取られてしまったとのことだった。
その後、今に至るまで、Oくんの噂は全く聞いていない。
でも、Oくんのことだから、きっと電力会社の中で頭角を現したことだと思う。
今は家族と一緒にどこかで幸せにしていると信じたい。