まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

メマリーの魔法の効き具合

認知症の義父を歯医者へ連れて行く予定だった今日。
(義母は趣味の予定があるので今日の通院はわたしにお任せ)。
出勤後の夫から
「親父から連絡があって、今日は具合が悪いから
歯医者に行けそうにないって。
歯医者は連絡して来週に延期してもらうけど、
用事があるから実家へ来て欲しいって言うからよろしく」
と電話があった。
「具合が悪いって、メマリーを元通り5mgに戻したのに、
傾眠とかが良くならないままなの?」と尋ねると、
「おふくろの携帯に電話して確認してみる」。
新幹線に乗っているところだったらしい義母に
ようやく連絡がつき(東北地方を走っている新幹線は、
とにかくトンネルやら山あいやらを走るので携帯がつながらないのだ)
昨晩義母たちは二人で寿司屋へ行き日本酒を沢山飲んだので、
義父は二日酔いになったらしい、メマリーの副作用ではない、ということを確認した。
 
実家へ着くと義父は外で待っていた。
そして、「じゃあ、行きましょうか」
「えっ、どこに行くんですか?」
「歯医者。今日、歯医者へ行くから来てくれたんでしょう?」
「あのー、具合が悪くて今日は行けないとお義父さんから連絡があったって・・・。
今日の診察はキャンセルして、来週に延期しました。」
「ああ、そうなのか。いや、なに、心臓が止まりそうなのを、
薬で無理やり動かしてるんだって話を聞いたら急に、
『俺はそんなに悪いのか』と不安になってしまって。
そうしたら、それまで何ともなかった心臓の辺りに
おかしな圧迫感を覚えるようになって、今朝は起きるのもやっとだったんだ」
 
止まりそうな心臓?
薬で無理やり動かしてる?
何のことだか全く訳が分からなかったので、
「何のことやらさっぱり・・・薬って、お義父さんが飲んでる薬ですか?」
と尋ねると、そうだと言う。
いくつか義父に質問して、その答えから推論したことは、こう。
 
今週月曜からメマリーを再び5mgに戻して調子が良くなった義父と義母は、
寿司屋に行って寿司をつまみながら日本酒を飲んだ(これは事実)。
その時に機嫌が良くなった義母は、
「いやいや、調子良くなって安心した。
薬のせいで寝てばかりいるようになって、
このまま死んでしまうんじゃないかと不安になったんだ」
みたいなことを義父に言ったのだと思う。
(若しくは、「薬のせいで死んだように寝てばかりいた」、とか)。
義母から見れば「すっかり元通り」の義父だが、
実は相当理解力は低下したままなので、義母の話をきちんと理解出来なかった。
ただ、その言葉の中の「死んでしまう」「不安」「薬のせい」というようなネガティブな単語だけに反応し、
「心臓が止まりそうなのを、薬で無理やり動かしている」
という話を頭の中で作り上げてしまったのではないだろうか。
(義父は、主治医からあれほどダイレクトに「中程度まで進行した、
アルツハイマー認知症」と病名を宣告されたのに、
実は病名が何なのかを理解してなかったのだ。
メマリーを飲み始めてちょっと経った頃、「ところで、医者は何の病気だと言ってたんだ?」
と義母に尋ねたそうだ。
そして、今飲んでいる薬=止まりそうな心臓を無理やり動かして、
義父を生き長らえさせているもの、と解釈したと言うことは、
認知症」が意味するものも理解出来なくなっているのかもしれない)。
元々非常に小心者である義父は、その考えを振り払うことが出来ず、
一晩中眠れず悶々としていた。
そして、あまりにも心臓に意識を集中させたために、
心因性のおかしな圧迫感を心臓の辺りに覚えるようになったのではないだろうか。
 
そんな訳で、義父には、メマリーについて、
「気分を穏やかにさせ、頭をはっきりさせる薬であること」と、
「2錠飲むとお義父さんには多すぎて眠くなってしまったため、
お医者さんの指示で1錠に戻したので安心していいこと」を説明した。
余計な修飾語は付けずに、ゆっくりはっきりした口調と笑顔で。
出来るだけ安心感を与えられるように気を付けて。
義父は分かったんだかどうだかちょっと怪しい感じだったけど、
「そうですか、そういう薬ですか。
良く分かりました、ありがとう」と穏やかそのものの口調で言った。
 
メマリーの魔法は、ちょっと中途半端な効き目であることが分かった。
どんないい薬を飲んでも、「認知症」そのものを治すことは出来ない、
ということの意味がつくづく良く分かった出来事だった。