まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

今日の涙腺決壊

学校があまりにも忙しく
 
耳鼻科へ行く暇がない娘のために
 
薬をもらいに病院へ行った。
 
待合室には老婦人がひとり。
 
やがて診察室から診察を終えた老人が出て来た。
 
老人は無料でサービスされているウォーターサーバーへ歩み寄ると
 
紙コップを手に取り水用のコックをひねった。
 
・・・と老人は老婦人の方へ向き直り
 
「お水はいかがですか、奥さま?」
 
「そうねえ、いただこうかしら」
 
老人はコップに水を満たし老婦人に渡しながら
 
おどけた調子でこう言った。
 
「1杯100円となっております、奥さま!」
 
老婦人は軽やかな笑い声を立て水を受け取った。
 
並んで水を飲み終えるとふたりは連れだって玄関へ行った。
 
ひとりが腰掛けに座って靴を履く間
 
もうひとりは相手の杖を持ってつつましく立っているのだった。
 
そうやってようよう靴を履き終えると
 
ふたりは杖をつきながらゆっくりと帰って行った。
 
ふたりの背中ははっきりとは見えなかった、
 
なぜならわたしは随分前からぼろぼろと泣いていたから。
 
質素ながらきちんとした身なりの老人と
 
腰の曲がった老婦人との仲睦まじい様子を見た途端
 
待合室でわたしは危うく声を上げて泣いてしまいそうになった。
 
ゆっくりと遠ざかって行くふたりのぼやけた輪郭に向かって
 
「どうかおふたりがいつまでもお元気でありますように。
 
そしていつまでもお幸せでありますように」
 
思わず祈ってしまったわたしだった。
 
両親を亡くしてから
 
思いもよらない場所で涙腺が突如決壊するようになった。
 
困ったものだ。