まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

全身が耳になってしまいました~Bill Evans "Solo piano at Carnegie Hall 1973-78"~

久しぶりに娘のお迎えに行った楽器店で、
思わぬお宝を見つけました!
Billさまの未発表音源、しかもソロピアノ、さらにさらに、
1978年と言えば「パリ・コンサート」と同時期ではありませんか!
 
・・・と言う訳で3200円を投下して早速購入。
帰宅してすぐ自慢の(?)オーディオで試聴しました。
・・・音がわるーい!
1973年録音分の3曲は、音質が非常に悪いです。
(どうも、お客さんが隠し録りした音源らしい)。
ライン録音ではないので、お客さんの咳払いなどの臨場感がすごい。
でも、この日のBillさまはなかなかの快演ぶりなのと、
"Hullo Bolinas"という、スティーブ・スワローの曲を演奏しているのがすごく珍しいのとで、
一聴の価値ありだと思いました。
1978年録音分の5曲はライン録音らしく、なかなか音質はGood!です。
しかし、この日のBillさまは曲によって好不調の差が結構ある感じ。
特に"B Minor waltz"の出だしでコードを間違えてしまったのが良くなかったのか、
この曲では完全に集中力が切れてしまったような、
ちょっと雑な印象さえ受ける演奏になっています。
続いての"All of You"は、Billさま晩年の演奏に見られる、
制御不能なような、暴走するような烈しい演奏。
(このような演奏を激賞する方も多いようですが、
わたしはBillさまのこういう演奏を聴くと痛々しいようなたまらない気持ちになります)。
78年録音分最後の"Reflections In D "は、
わたし個人としては今回のソロ演奏8曲の白眉だと思います。
すぐ前の"All of You "と同一人物の演奏とは信じがたいような、
完璧に制御された、理知的で透明感に溢れた、Billさまらしい演奏で、
この曲が始まると同時に、わたしは「全身が耳になる」ような感じを覚えました。
「パリ・コンサート」の時のソロ演奏も本当に素晴らしかったですが、
この演奏も本当に本当に素晴らしい。
Billさまが最後に達した境地を垣間見ることが出来る演奏だと思います。
未発表音源!ということに加えて、78年録音分では、なんとBillさまのMCも堪能できます。
例のものすごく鼻にかかったような不思議な発音で、
曲の紹介や、「今回は(電気的な)増幅なしで演奏してみようと思います。
さて、どうなることか」みたいなこと、
そして、「ちゃんと聞こえてます?」なーんてことまで言っていて、
実際にカーネギーホールでのライブに立ち会っているような気持ちになれると思います。
(Billさまは、世間で思われているより、可愛らしいところのある人だったようです。
唯一のボーカルを披露した「サンタが町にやって来る」では、
曲の最後に本来はない「・・・おひげを生やして!」というフレーズを勝手にくっ付けています。
「わたしは、世間では気難しい人間だと思われている。
実際わたしのアルバムの写真を見るとむっつりしたものばかりだ。
笑顔の写真もたくさんあるはずなのに、なぜか採用されないからなのだが」
というようなことも生前言っていたらしいです。
"The Bill Evans Album"のジャケット裏の写真では、
珍しく歯を見せて笑っているBillさまが見られますが、
それを見ると「どうして笑顔の写真が採用されなかったか」がちょっとだけ分かる気がします)
話がそれましたが、このアルバムには、1970年にシカゴのテレビ局で収録された演奏が、
6曲分入っています。
エディー・ゴメスとマーティ・モレルとのトリオ演奏で、
残念ながらこちらの音質も今ひとつですが、演奏自体は本当に素晴らしいです。
速いパッセージでも音の粒がきれいにそろい、全ての指が完璧にコントロールされている感じの、
いかにもクラシックの修練を積んだBillさまらしい端正な演奏を聴くことが出来ます。
 
Billさまがこの世を去って今年で34年。
でも、いまだにこういう未発表音源が見つかって、新しいBillさまの演奏が楽しめるのは、
ファンとしては嬉しいことだと思います。
・・・もっともっと長生きしてくれれば、もっと嬉しかったんですけどね。