まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

これぞ「師匠」、まさしく人生の師~「ちりとてちん」第51話~

中3の娘は、非常に泣かない性質でして。
毎日「ちりとてちん」を一緒に見ていて、わたしがいくら「目からよだれ」を流しつつ
グズグズのズルズルのひっくひっく状態になってても、涼しい顔をしてるんですが。
 
その娘が、このお話を見終えてひと言。
「草若師匠、いいわあ。
あたし、泣くとこだった。」
 
では、早速、娘を泣かせるとこだったこれを・・・。
 
今日のイチオシ!
「草々、お前、相手見て、言葉選んで、もの言え。」
 
「あの子にはなぁ、いつか、心がよ~ぅ温もったとき、
謝っとき。」
 
両方とも、草若師匠の言葉です。
一つ目は草々に向けたもの。
小草若を除く徒然亭一門が「寝床」に集っていると、
テレビの収録を終えた小草若がA子を連れて来ます。
「この間(テレビ局で会ったとき)はゆっくり話も出来なかったから、
小草若さんに頼んで連れて来てもらった」と言うA子は、
たちどころにその場で「みんなのアイドル状態」になります。
大好きな草々にA子と比較されて気の利かなさを指摘されてしまう喜代美。
「ホントに喜六と清八みたいやな、お前らは」と言った草々の言葉に首をかしげるA子に、
草原が「東の旅 発端」を演じて見せます。
何だかよくは分からないけれど、楽しい話と雰囲気に、
お姫さまオーラ全開でキラキラと笑顔を浮かべるA子の様子を見ていたたまれなくなった喜代美は、
「わたしの居場所に入って来ないで!」と叫び、A子を追い返してしまいます。
呆気に取られる小草若。
草々は、「お前は、ホンマに自分のことしか見えてへんな!
・・・お前は、落語家に向いてへん!」と喜代美を怒鳴りつけます。
うなだれて「寝床」を出る喜代美は、出て行く前に戸のところで振り向いて精一杯の笑顔を作り、
「お店の空気、悪うして、すいませんでした」と謝りますが、最後は涙声になっていました。
店の沈黙を破ったのは草若師匠。
怖い顔をして、押し殺したような低い声で、草々に言ったのが、「今日のイチオシ!」一つ目です。 
 
二つ目は、喜代美に向けられた言葉です。
「寝床」を出て、師匠の家で自己嫌悪感に苛まれていた喜代美。
廊下を通り過ぎようとすると、師匠に部屋に呼ばれます。
そして、師匠は一服のお茶を淹れて喜代美の前に置き、すすめます。
喜代美がそのお茶を飲むと・・・何かが喜代美の心の中で動き・・・。
そこで、師匠が言ったセリフが、「今日のイチオシ!」二つ目です。
翌日、掃除をしながら喜代美は、師匠に淹れてもらったお茶が、
何だか身体の内側から沁みるような、特別な感じがしたことを奈津子に話します。
ここで、奈津子がナイスアシスト!
「家事を心をこめてやること」が、どうして落語の修業になるのかが分かった喜代美は、
別人のようになって、心をこめて家事に精を出すようになります。
そして、とうとう師匠から、ひぐらしの紋の入った扇子と、手ぬぐいを渡されるのです。
(徒然亭の紋は、ひぐらしです。「徒然草」の冒頭の有名なあの文、
「徒然なるままに、日暮らし・・・」から採られています。)
 
草若師匠は、別格ですな。
もう、「あなた様に、あたしは、一生涯付いて行きやす」と言いたくなります。
みんなの目がA子だけに向いている間にも、師匠の目は、喜代美に向けられています。
そして、たちどころに喜代美がA子に抱いている複雑な感情を見抜いてしまう。
弟子を諌めるにも、相手を見て、言葉を選んで、言うべきときに、言うべきことを、
言うべき相手に、過不足なく言っている。
自分の価値観だけで物事を見ている草々には、厳しい顔と口調で、ビシッと、ガツンと。
自己嫌悪で押しつぶされそうになっている喜代美には、柔らかな日差しのように優しく。
もう、落語だけでなく、人生の名人ですな。
だからこそ、あの四草にいさんが、「この人」と見込んで付いて行くことに決めたのでしょうね。
 
そう言えば、四草にいさん、この人も、ただ者ではありませんな。
妹弟子の喜代美を、アゴでこき使う性格の悪いだけの兄弟子かと思わせて、
実は非常に繊細な気配りが出来る人物と見ました。
今回の放送で、A子がアシスタントを務めている小草若の番組が「寝床」で流れる場面がありますが、
それを四草がパチンと消すタイミングにそれが表れてると思います。
小草若だけが映ってる間は動かなかった四草が、
A子が映ると、ふっと立ち上がってテレビを消すのです。
以前、テレビに映ったA子についてみんなが「こんな可愛い友達がいるなんて」と大騒ぎする中、
ひとり四草だけは、ああいう同姓同名の子と同じクラスだったのなら、
喜代美の学校生活は悲惨だっただろうと、一瞬で看破していました。
テレビを消した後で、小草若に我慢がならないから消した、みたいなことを言ったのは、
四草の照れ隠しなのでしょう。
優しさだとか、親切心だとか、そういう自分が心のうちに持っているものを他人に知られることを、
何よりも恥ずかしくて恰好悪いことと思っているのが四草ですからね。
・・・それにしても、本放送のとき、わたしは一体何を見てたんだろう。(←なんせ、
うつ病がひどかったですからね・・・と、必死で言い訳
四草にいさん、めっちゃええ人やん!
(「ちりとてちん」を見たあとだと、関西弁で書きたくなってしまうのは何故なのでしょう。
「使い方が間違ってる!」とか、不快に思われたらごめんなさい。)
 
草若師匠、尊敬しております。
わたくしも、あなた様に付いてまいります!!!
 
***追記***
正確に言えば、脚本を書いておられる藤本さんに付いてまいります!ですね。
この人物描写の丁寧さ、ものすごく複雑に張られた伏線とその回収の見事さ、
もう、胸がすくような感じを覚えます。
お見事!あっぱれ!ブラボー!