福原美穂「素直」
数日ぶりに外のベランダに洗濯物を干しながら、
・・・と、突然、「あの日」の記憶が心に押し寄せて来た。
とうさんが亡くなった翌日。
わたしは実家でとうさんと過ごしたのだった。
誰か一緒だったなら、あんな気持ちにならずに済んだのかもしれない。
でも、わたしは広い実家でとうさんの亡骸と二人っきりだった。
どこを見ても、何を見てもとうさんのことを思い出した。
かあさんが突然逝ってしまったあと、生まれて初めての一人暮らしで孤独と闘っていたとうさん。
具合が悪くなり、どんどん衰えて行く身体に不安だっただろうに、
わたしが帰るときにはいつも「遠いところありがとな。
気を付けて帰らいん(帰りなさい)。
〇〇くん(わたしの夫のこと)や子どもたちにもよろしくな。」って言ってくれて、
「またあさって来るよ」って言うと、
「ああ。待ってるから」って笑顔で答えてくれたとうさん。
「もう、俺は生きて家に帰れないんじゃないかと思う」
初めての入院が決まったとき、そう暗い表情で言ったとうさんを絶対に生きて家に帰らせるんだ!と
心に誓ったのに、結局とうさんを遺体になってからしか家に帰らせてあげられなかった・・・。
かあさんが亡くなったあとの半年間に起こったこと、
そしてその間に見たとうさんのいろいろな表情を思い出すと、
わたしは本当に悲しくて辛くて、胸が張り裂けてしまいそうだった。
実家の2階にあるわたしの部屋で眠れぬ夜を過ごす間、
一晩中ウォークマンで1曲リピートしていたのが福原さんの「素直」だ。
傷だらけになってどくどく血が流れてしまっている感じだったわたしの心を、
福原さんの優しい歌声が包んでくれるような感じがした。
あの晩、わたしは一体何回この曲を聞いたのだろうか。
ベランダの手すりにもたれて空を見る。
きれいな青い空。
あの空のどこかに、とうさんはいるんだろう。
おーい、とうさん、おっかさんと仲良くやってる?
相変わらずお小言言われてちょっと辟易したりしてる?
ちょっとにじんだ青い空を、ぽっかりと白い雲が流れて行った。
*福原美穂さんの「素直」は、
We love Mackeyという、槇原敬之さんのトリビュートアルバムに入っています。