まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

とうさんをお風呂に入らせてあげたかった

(高齢者)福祉について考察中。
・・・と言っても、わたしの場合は福祉施設で働いているわけでなし、
良く知ってるサンプルはうちのとうさんだけなんだけどね。
サンプル数、たったの1。
 
とうさんの最後の半年間を振り返って、いくつか心残りに思うことがある。
その筆頭はお風呂だ。
 
うちのとうさんはお風呂が大好きだった。
家で風呂に入るときは、ぬるいお湯に長い時間浸かるのが大好きで。
反対に熱い風呂にサッと入るのが好きだったかあさんは、
「お父さんが入った後にお風呂に入ると、風邪ひきそうになって嫌だ」と
いつもこぼしていたっけ。
温泉なんかに行った時には、それこそ風呂三昧。
夕飯前に一風呂浴びて、食後にまた入り、寝る前にも入って。
翌日は早起きして小原庄助もびっくりの朝風呂。
「いやいや、いい風呂だった」とご機嫌だった。
 
今年3月初旬。
栄養失調から全身浮腫を起こしたとうさんは、生まれて初めて入院することになった。
入院して最初の10日間くらいは全く風呂に入れなかった。
なぜなら、とうさんの脚が蜂窩織炎(ホウカシキエン)という、
恐ろしい感染症を起こしていたから。
強力な抗生剤と利尿剤の点滴によって、とうさんの蜂窩織炎と浮腫は改善した。
そこで、ようやくシャワーの許可が出た。
看護婦さんが付き添った上、湯船に入ることは出来なかったけれど。
結局退院するまでの間、湯船に入ることは許されなかった。
4月中旬から、くも膜下出血を起こすまでの1ヵ月ちょっと、
とうさんは有料老人ホームに入居していた。
そこでのお風呂は、なんと週1回だけ。
追加料金(1回1050円)を払えば、週にもう一度だけ追加することが出来ると言う。
当然、お金を払って週に2回入れるようにしてもらった。
でも、週にたった2回だけ。
3.5日に1回しか風呂に入れなかったのだ。
あんなにお風呂が大好きだったのに。
 
とうさんが寝たきり老人で、入浴に大掛かりな機械が必要だったのなら、
週に2回の入浴でも文句は言わない。
でも、とうさんはくも膜下出血で倒れるまでは、
見守ってくれる人さえいれば、身の回りのことは全部自力で出来ていたのだ。
手すりや台など、高齢者に配慮がなされている老人ホームの浴室ならば、
イザという時に対処してくれる人さえいてくれれば、
自分で風呂に入ることくらい簡単にできたのである。
それなのに・・・。
月に20万円以上という、年金生活者のとうさんにとって安くない料金を払っていたのに・・・。
 
毎日アパートの風呂に入りながら、わたしは
「ああ、とうさんはどんなにお風呂に入りたかったことだろうか」と思わずにいられない。
 
日本は世界一の長寿の国だそうだ。
でも、高齢者は果たして幸せだろうか。
「死」という人生の終着点に向かっていく最後の日々を、
満たされて過ごすことが出来ているだろうか。
それこそが、とうさんの最後の半年間を見守ったあとも、わたしの心から消えない疑問だ。