まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

Cちゃんは○○〇を見つめて泣くのだった

昨日のこと。
さっきまで仲良く遊んでいたはずのお子たちが
急にざわつき、「先生!Cちゃんが泣いてます!」
急いでそばへ行ってみると、
年長さんの女の子、Cちゃんが確かに泣いていた。
「どうしたの?」と周囲の子に尋ねるまでもなく、
辺りに居た子たちが口々に
「Cちゃんがお人形投げたんだけど、
それをDくんが注意した口調がちょっと強かったら、
Cちゃんが泣いちゃったみたいなの」と教えてくれた。
「そうなの?」と尋ねても、Cちゃんは泣いていたのだが、
その泣き方にちょっと不自然な印象を受けた。

Cちゃんはその場に真っすぐ立ったまま、どこかを見つめて
ただ涙を流しているのだった。
確かに涙は流しているものの、悲しそうな印象はまったくなく、
まるですーっと立っているお人形の顔の表面を
水が流れているような感じ。
どんな言葉を掛けてもわたしの方に注意を向けることなく、
声を出すこともなく、どこか一点を見つめながら
ただただ涙を流し続けている。

Cちゃんの視線の先にあったのは、「鏡」だった。
Cちゃんは涙を流す自分の姿に見入っていたのだ。
「…こんなに素敵な赤いワンピースを着て来たのに、
いつまでも涙をぽろぽろしていたらせっかくのお姫さまが台無しよ」
そう声を掛けたら、初めてわたしに注意を向けた。

おやつの時間、延長保育の時間、
Cちゃんが泣く場面を何度か見たことがある。
Cちゃんは、必ずと言っていいほど、声を出さずに泣く。
何の感情も浮かんでいないような顔のまま、
ぽろぽろと涙を流すだけなのだ。
相手に大声で抗議することもない。
わんわんと泣き声を上げることもない。
サイレント映画の中の女の子であるかのように、
音を立てずに涙を流すだけなのだった。

Cちゃんの家は必ずパパがお迎えに来るのだが、
お迎えに来ても声を掛けるでもなく、
ただ黙ってそこに立っていることが多い。
でも、パパの姿に気付いた途端、Cちゃんはギクッとした様子で
大慌てでお帰りの準備をし、大抵は笑顔もなく帰って行く。
以前、折り紙をしている最中にお迎えが来たとき、
Cちゃんが珍しく「折り終わってから帰りたい」と言ったことがあった。
すると、パパは「ママが車で待っているんだぞ」と低い声で答えた。
Cちゃんが黙って折り続けていると、パパはもう一度低い声で
「ママが駐車場の車で待っていると言ってるんだ」と言い、
Cちゃんの腕を取った。
その途端、Cちゃんの顔が一瞬苦痛の表情で歪んだような気がしたのだ。
一度だけだったし、確証は無いのだけれども…。

ここはものすごい田舎なので、作業着姿でお迎えに来るパパママも多い中、
Cちゃんのパパはいつもきっちりとしたスーツ姿。
いかにも「インテリ然」とした見た目のパパなのだけれど…。

Cちゃんのどこか不幸せそうな雰囲気に、
引っかかるものを感じてしまう、おばちゃん先生なのだ。