まだまだいなかのねずみ

日本の片隅で妻・母・非正規雇用者している栗ようかんの思索と日常

さまざまな悲嘆のかたち~「昨夜のカレー、明日のパン」を見た~

ドラマはほとんど見ないわたしだけど、
現在NHK BSプレミアムで日曜午後10時から放送中のドラマ、
「昨夜のカレー、明日のパン」を見ている。
 
このドラマは、とうさんを亡くして1年半経っても出血中のわたしの心を揺り動かし、
震えるような感動を与えてくれる。
放送された2話までを見ながら、わたしは登場人物たちの気持ちにシンクロし、
何度も何度も涙をこぼした。
 
このドラマの主人公は26歳のOLテツコと、同居しているギフ(義父)。
テツコは7年前に夫の一樹を亡くし、以来一樹の実家でギフとの二人暮らしを続けている。
同じ会社に勤める岩井くんから何度も求婚されているのだが、
どうしても結婚に踏み切る気持ちになれない。
一見、非常に明るくサバサバした性格のテツコと、
これまたサバサバして飄々とした性格のギフ。
周囲からは「7年も経つのに夫の父親と二人で暮らしているなんて」と言われているけれど、
テツコとギフは二人で居心地良さそうに暮らしている。
そのお隣りさんの家には、笑顔が作れなくなってCA(キャビンアテンダント)を辞めざるを得なくなった、
ムムム(とギフが呼んでいる)が両親と住んでいる。
ムムムはかつてそれはそれは美しい女性だったのだが、
今は完全に昼夜逆転の生活を送り、精神科で薬をもらい、引きこもりの生活を送っている。
定年退職したばかりのムムムの父親も、母親も、ムムムのことを心底心配しているのだが、
そっと見守ることしか出来ない。
夜になり人通りがなくなると、ムムムは眼鏡をかけ、パーカーのフードをかぶって家から出て来る。
それは、一見ごくフツーの、どこにでもいるニートのように見える。
 
2話目まで見終えて、このドラマに出て来る人々は全員が、
7年前の一樹の死に影響を受け、それを引きずって生きていることがだんだん分かってきた。
キャンディーの缶に一樹の骨を入れ、大切にしているテツコやギフだけでなく、
隣の家で育ち一樹が単なる「幼馴染」以上の特別な存在であったらしいムムムも、
一樹の従兄弟(?)のトラオも、テツコに求婚し続けている岩井くんもみんなみんな。
それぞれがいろいろな形で一樹の死から未だに立ち直れていないのだ。
 
でも、テツコはとても賢い女性だから、そんな現状に気付いているし、
そのままではいけないことも、そのままではいられないこともちゃんと分かっている。
そして、テツコと関わるようになったムムムも、
ただ引きこもっているだけではなく、立ち上がろうとし始めている。
若い人たちはそうやって、7年経ってようやく前へ進んでもいいかな、進まなければ、
という気持ちになっているのだが、問題はギフである。
飄々とした陽気な初老の男のように見えて、実はギフは非常に不幸な人物なのだ。
ギフは息子一樹を病で亡くす前に、最愛の妻夕子のことも亡くしている。
その二人の名前を表札から未だに消すことが出来ずにいるギフ。
 
一人の人物がこの世から消えるということは、
いつまでも消えない波紋のようにたくさんの人々の心に影響を与え続けるものなのだろう。
でも、その涙の泉の真ん中に座り込んで泣いてばかりいてはいけない。
泣くだけ泣いて、悼むだけ悼み、周りから「もう進め」と言われたからじゃなく、
自分から「もう進もう」と思えるようになったら、立ち上がって進まなければならないのだ。
それこそを亡くなった人たちは望んでいるのだろう。
 
全7話のドラマ、テツコたちがこれからどうなっていくのかを見守ろうと思う。